[NO.1246] 図像学入門

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図像学入門/夜中の学校⑥
荒俣宏
マドラ出版
1992年12月5日 第1刷
1993年5月25日 第2刷

荒俣氏お得意の図像について。

p7
ズショウと訓(よ)んじゃいけません。ズゾウです。こうすると美術の美(「美」に傍点)のような偏見が消えます。ただのかたちです。「ああ、きれいだな」とか「ほう、なるほど」というような印象は、まず置いておいて、「いったいこれはなにが描いてあるんだ」ということを明解に知ろう。そこからスタートしていきたいと思います。

っというのが本書での立ち位置。もともとがTVで放映された内容をまとめたものなので、全体にわかりやすい。

こんな深夜番組が、かつてあったのですねえ。巻末にあった説明によれば、「夜中の学校」という番組がテレビ東京であったとのこと。1991年7月~1992年9月。原則として一ヶ月に一人の先生が、毎週金曜日の夜中の0時四〇分からの三〇分間、応募した三〇人の生徒を前に講義したのだという。さらに、巻末解説はつづけて番組協力として、「リクルート、テレビ東京、電通、オフィス・トゥー・ワン、それに村上信夫さんをはじめ現場のスタッフのみなさんに感謝したい。」とあります。まさに、バブル期。

では、そんな「夜中の学校」シリーズとはどんなものがあったのだろうか。全13巻としてまとまっている。
1 糸井重里『イトイ式コトバ論序説』
2 橋本 治『思考論理学』
3 淀川長治『美学入門』
4 野田秀樹『非国語』
5 杉浦日向子『ぶらり江戸学』
6 荒俣 宏 『図像学入門』
7 秋元 康『トレンド学』
8 川崎 徹『無意味講座』
9 中沢新一『宗教入門』
10 景山民夫 『預言学入門』
11 養老孟司 『生と死の解剖学』
12 デ-モン小暮 『悪魔の人間学』
13 天野祐吉『おかしみの社会学』

前振りが長くなってしまった。本書の中身はというと、きわめてコンパクトで、短時間に読み切ってしまう。なるほどと思ったことがいくつか。
その1。ピカソが集めていたという彫刻類。「アフリカとかニューカレドニアとかの現地アートを集めるのが、彼は好き」だったという。なるほど。それらの現地アートというのがピカソのデフォルメされた絵とそっくりなのだ。まるで彫刻を単に絵に写しただけのようだった。元ネタを見てしまった感じ。こんなこと、美術の教科書にはまるで、出ていなかったぞ。
その2。「ヨーロッパ人は絵を読む」ということについて。いやはや、目から鱗が落ちた。ヨーロッパ人がごく当たり前に行っていた図像を読むという行為を、我々日本人はまるで理解しなかった。したがって初めて西洋絵画に接した平賀源内が、そこにリアリズムだけを見たという説明に納得した。高橋由一の「鮭」の絵などはキリストの受難以外には受け取りようがないのだという。ヨーロッパ人にとってはごく当たり前の物語を読み取ることができなかった日本人。これって、その後もいろいろな分野で数多く生じた一連の輸入物のことと同じではないのか。小林秀雄訳のランボーが、フランス人なら何でもなく受け取れる日常語の内容を敢えて小難しく日本語に翻訳してしまったとか......。フランスで当時流行っていた自然主義文学を輸入した際に......。枚挙にいとまがない。