[NO.1245] 屋上のとんがり帽子/たくさんのふしぎ傑作集

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屋上のとんがり帽子/たくさんのふしぎ傑作集
折原恵
福音館書店
2002年9月1日 発行
2008年1月20日 たくさんのふしぎ傑作集第1刷

こんなにも面白いネタがあったことに驚愕。ただし、場所はニューヨークなので、おいそれとは手が出せない。

四釜裕子氏によるサイト book bar 4 の中に、タンク部という項目がある。ビルの屋上に設置さらた給水タンクのある風景を愛でる内容で、気に入った給水タンクの写真も何枚か紹介されている。しかし、それらは本書で取り上げられたニューヨークの給水タンクとはまったく異なる。なぜならば、ニューヨークのそれらはすべて木製なのだから。

いや、驚いた。マンハッタンの近代的な摩天楼の屋上には木の板を使った巨大な桶が乗っていたなんて、まったく知らなかった。意外というしかない。本書の写真を見ながら、なんども目を疑った。

これまで見てきたはずのニューヨークの写真や映画などで、そんな光景があっただろうか。あえて、目立たないように撮影されていたのか。それとも、現地の人々にとってはあまりにも当たり前のことなので、さりげなく写っていなかっただけなのか。あらためて調べてみると、たんにこちらが意識していなかっただけであることを知った。これまで目にしていても、意識していなかっただけだったのだ。なんということだろう。

治安が悪く街が汚かった1970年代に植草甚一氏はマンハッタンの側溝(JJ氏はガターと言っていた)ばかりを何百枚も写真に撮ってきた。そこに写ったゴミが良かったのかもしれない。摩天楼の屋上と足下とでは正反対だ。そこがなんだか可笑しい。

p19
屋上にのぼって、給水タンクをま近に見ておどろいたのは、タンクがみな、木で作られていることでした。しかも、ペンキやニスをぬらない、自然のままの、杉の白木なのです。わたしは、ニューヨークの給水タンクがみな、木でできていて、100年前のビルにも、超モダンなビルにも、まったく同じ形の木のタンクがつけられていることに感動し、また、なぜ木なのだろうと、ふしぎに思いました。
そこで、給水タンクをつくっている会社に行って、社長さんに、「給水タンクはなぜ木でつくるのですか」とたずねました。
社長さんはこの質問に、まってました! とばかりに、こたえてくれました。
「ニューヨークは、夏はとても暑く摂氏40度近くになるし、冬は零下20度にもなるくらい寒いんです。そこで、熱を通しにくい木をつかうと、夏に水を冷たく、冬に水をこおらせずに温かくたもつのにいいんですよ」
では、なぜ、とんがり帽子、いえ、円錐形の傘をかぶっているの?
「もちろん、雪がつもらないためですよ」
では、木以外の材料はどうでしょう。鉄はさびるし、コンクリートはひびわれます。プラスティックはじょうぶそうに見えますが、年月がたつと、もろくなり、こわれやすいのです。その点、木製はじょうぶで長もちします。手入れや修理をすれば40年、囲いがあれば60年もつそうです。木製タンクは1個500万円くらいですが、ながもちすることを考えれば、いちばん安上がりなのです。

「それから、もうひとつだいじなこと」
社長さんはうれしそうに言いました。
「木のタンクだと、水がいたまず、おいしいんですよ」

しかも、それらのタンクは人の手によって、屋上で板を組み合わせながら作られているのだという。その作業写真が掲載されていた。移民によって始められた給水タンク会社の歴史も紹介されており、それを読むとなんだかアメリカの歴史をあらためて考えさせられた。

お子様用の本(小学中級から)なので、文章の漢字にはすべてふりがな付き。