賢者の本棚/プレジデントムック プレジデント編集部 プレジデント社 2010年12月24日 第1刷発行 |
まあ、「プレジデント」なので、そういった内容。
書き手を抜粋。逢坂剛/斎藤美奈子/堺屋太一/柳田邦男/田原総一朗/丸谷才一/高橋源一郎/北上次郎/福原義春/池内了/姜尚中/五木正之/タケカワユキヒデ/山本晋也/中野翠/樋口裕一
出版社サイトに詳細説明あり。リンクはこちら。商品説明と目次欄の下、「目次」のところをクリック。
p38
丸谷才一
日本の近代文学で誰が偉い作家かといえば、夏目漱石と谷崎潤一郎、そして森鴎外の三人だと相場はほぼ決まっています。戦前の文壇筋では、谷崎はともかく、漱石や鴎外を褒めるのは素人で、一番偉いのは志賀直哉だと評価が定まっていましたが、ここにきてやっと妥当なところに落ちつきました。
一般的に漱石や谷崎の作品はよく読まれているはずなので、あらためて触れる必要はないでしょう。問題なのは森鴎外です。だいたい、鴎外の小説は美談主義でたいしたことはない。それでも、国語の教科書で『高瀬舟』なんかを無理矢理読まされるものだから、みんなうんざりしてしまう。そもそも教科書にはつまらないものが載るので、教師の教え方も下手に決まっているから、印象が悪くなるのは当たり前。鴎外の作品で本当に価値があるのは、晩年の五十代に書いた三つの伝記なのです。
「日本の近代文学で誰が偉い作家かといえば、夏目漱石と谷崎潤一郎、そして森鴎外の三人だと相場はほぼ決まっています。」って、漱石と鴎外を取り上げることには誰しも異論がないだろうけれど、そこに谷崎を加える人はいったい何人いることか。どうも、このあたりは偏っている。いかにも丸谷才一氏だからこそ。
その逆にいかにも、と納得でき、うなずけたのが、その次のフレーズ。「戦前の文壇筋では、谷崎はともかく、漱石や鴎外を褒めるのは素人で、一番偉いのは志賀直哉だと評価が定まっていましたが、ここにきてやっと妥当なところに落ちつきました。」(私)小説の神様と呼ばれた「志賀直哉」の位置づけ。たしかに、現在は戦前ほどの持ち上げられ方からは遠のいた。
いやはや、本誌で久しぶりに丸谷才一氏のお顔を拝見しました。お元気そうで何より。1ページ全面を使ったカラー写真。撮影のためだろうが、うっすらほお紅。すごい。
で、上記の続きによれば、三大伝記の中でも、澁江抽斎と伊沢欄軒がよくて、北条霞亭はさほどでもないという。
なお、作家の宇野浩二や石川淳はこれら二作よりも三作目の 『北条霞亭』のほうが上だと言っています。石川淳の説によると、鴎外は北条霞亭という男を夢中になって調べる中で、この男が俗物だと悟った。でも、鴎外はこれが人間なのだと考えて書き続けた。そこが素晴らしいと。石川淳が『北条霞亭』から感じとったのは、霞亨の俗物性に接することによって鴎外が自分の俗物性に気づいてしまい、その困り方が作品に表れていて文学的に価値があるということでしょう。
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