1Q84/BOOK3〈10月-12月〉 村上春樹 新潮社 発行/2010年4月16日 3刷/2010年4月30日 |
BOOK1、BOOK2 のあらすじを思い出せずにネット検索でしばしおさらい。なーるほどと、うろ覚えの記憶をたどりながら読書開始。すると、村上氏は親切。出だしで、きちんとこれまでの記憶を思い出せるように工夫がほどこされていた。さすが、売れるだけのことはある。
それにしても、読みやすい。キーワードは「平明」だね。わかりにくい文章がない。句読点の使い方が、まず平明を旨としている。論理展開、使用している単語など、一見すると理屈っぽそうな体裁をとっているが、なんのことはない。ストーリーをたどっていけば、それはまるで、お子様向けのお話のよう。
頁を開いている時間は、すっかり作品内へ没入。主人公と一緒にその世界を生きる自分がいる。頁を閉じれば、現実の世界へ引き戻され、時々空を見上げては、月が二つ出ていないかと探している。そうして再び頁を開くと、また小説内の世界へダイブ。こうした時間のもてることが楽しいと感じられることの喜び。一時期、村上春樹の小説を用いて、まるで暗号を解読するように読むことが流行ったけれど、そんなことが無意味に思えてくる。しちめんどくさい理屈抜きで楽しめる。この登場人物のモデルはきっと誰それだろうとか、この組織のモデルはあれなんだろうとか。そんな知識がくだらなく思えてくるのだ。ただ主人公と一緒に作品内の世界を駆けめぐるだけでいい。
BOOK1、BOOK2が二人の視点から交互に章立てていたのが(まるで『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のよう)、今回はもう一人の視点による章が加わって、3人からの語りが順番に展開される構成となった。それはそれで、違和感はない。映画でいうところの「グランドホテル方式」のような、こうした描き方は翻訳小説がお好きな村上氏らしいところ。
それにしても、前作ラストで銃口をくわえ、自殺を図るところで終わった青豆さん。本作ではあっけなく、思いとどまったとして、あっけらかんと話が展開しているところは、なんだかご都合主義のようだな。
一気呵成に平日の2晩で読了。前作同様、これで風邪をひかなきゃいいが。
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