[NO.1127] 虹の彼方に/池澤夏樹の同時代コラム

over_the_rainbow.jpg

虹の彼方に/池澤夏樹の同時代コラム
池澤夏樹
講談社
2007年9月11日 第1刷発行

昔は理系志向の小説家ということで興味を抱いていた池澤氏だったが、21世紀に入るころから次第にポリティカルに強く傾いてしまい、面白く思っていなかったところがある。それなのに、こうした政治色の色濃いコラム集が面白く読めてしまうところが複雑怪奇。そういえば一時期筆者が主催していたメーリングリストは最近届かなくなっていた。どうしたのだろう、すっかり忘れていた。

p38「市場原理と子供の躾」から引用
最初に変わったのは子供でも親でもなかった。社会が変わったのだ。世の倫理は古来ずっと節約を原理としてきたのに、それが消費という逆の原理に置き換わった。
若い者は判断力が甘い。だから商品は若者をターゲットに開発され、売り込まれ、おかげで消費は年々拡大した。それが各国に先駆けた日本の繁栄の正体ではなかったか。教育の荒廃はその対価ではないのか。
躾とは習慣による欲望の制禦(せいぎよ)である。だが市場原理の社会では、欲望は買うという形で即座に具体化されなければならない。我慢や貯金は悪徳。今や人にとって対人関係より対商品関係のほうが大事で、それが証拠に家庭の中でいちばん発言力があるのは親ではなくテレビをはじめとする広告である。
市場原理の魅力には抗Lがたい。その新製品さえ買えれば、あなたもサムバディ。そう思った時のあのひりひりするような購買欲の昂(たかぶ)りは老人にはわからないだろう。

↑ 現在の社会について考える。そういえば、池澤氏の例のメーリングリストでイスラム主義と資本主義との対比をしていたことがあったが、あれはどうなってしまったのだろうか。
ここから、マイケル・ムーア『キャピタリズム~マネーは踊る~』までは近い。っと思っていたら、別の内容でマイケル氏が登場。ただし、『ボウリング・フォー・コロンバイン』について(p134)。

抜き書き
p38市場原理と子供の躾
p46幸福の再定義
p54瞬間湯沸かし器の口火
p144脅えるアメリカ人

 ◆ ◆

【追記】230828
池澤夏樹さんの公式サイト内に本書のページがありました。リンク、こちら 

9.11を経た時期のことが思い出されます。2000年~2006年の間に書かれていました。このころから何があったのか思い出しています。

作品情報
< 目次 >

まえがき、あるいは政治の季節

2000年 二十世紀最後の年
2001年 世界の色調が変わった日
2002年 われわれを追い詰めているもの
2003年 何が本当の脅威か
2004年 国家の大義、政治家の嘘
2005年 憲法の前に政治を変えよう
2006年 暴力化する世界で

発売日:2007/9/7
出版社:講談社