[NO.1104] 山といへば川

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山といへば川
丸谷才一
マガジンハウス
1991年12月12日 第1刷発行
1992年2月4日 第3刷発行

この人のエッセイは、どうも長い。もっとも、そこがコラムとエッセイの違いだと言われてしまいそう。

丸谷節に酔える読者にとっては魅力を感じるのだろうが、どうも近頃はそうは思えなくなっている。まだるっこく感じてしまうのだ。旧仮名遣いに抵抗はない。戦前の文章を読むなら、できれば書かれた当時と同じ旧字体で読みたいのだから。

さて、本書はというと、書評というよりも新刊書紹介といった短文の積み重ねが主なので、そういった意味では読みやすい。扱っている本の種類も千差万別。さすが丸谷氏といった趣きで、実に多彩。古今東西の名著、それも得意の英米小説からスーザン・ソンダクまで。(スパイものが見あたらないのが不思議なくらい)。はたまた『ベスト オブ 丼』まで、縦横無尽。

お遊び心も十分で、秋山駿著『魂と意匠――小林秀雄』の書評見出しは「思へば遠くへ来たもんだ」。

なるほど、と思ったのがp58「文学のオルガナイザー」と題した篠田一士氏への追悼文。篠田氏を評して、エズラ・パウンドに比する。その理由として、詩と長編小説への持続的な関心であると。

この文学的オルガナイザーの事業がどのやうな成果をあげるかは、それゆゑ、むしろ将来のことに属する。彼の読者たちがやがて何を読み、何を書くか。そこに注目したとき・篠田一士論は成立するのである。近代日本文学はさういふ批評家をはじめて持つた。

篠田一士氏のこと、ときどき思い出しては、溜息をついていたところ。それだけに、目をひく。丸谷氏の一年後輩にあたるのだという。一緒に同人誌をやっていたとも。

出版年からいって、80年代がほとんどなので、今さら読んでみたくなるような本は少ないのが難点。(ちょうど、その頃までは多読できていた。90年代から2000年代初頭までの約10年間、ほとんど読む間もなかったので、当サイト管理人にとって空白の10年といったところか。)

マガジンハウスって、この頃には丸谷才一氏の書評集を出していたということに驚き。