[NO.1059] 本屋さんまで50歩

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本屋さんまで50歩/より道ブックガイド
井狩春男
ブロンズ新社
1993年10月25日 初版第1刷

新刊・既刊・珍本・絶版本とりまぜた100冊あまりの面白本を「あ」から「ん」まで50音順のエッセイに織りまぜて紹介。本との出会い、本をめぐる人々、ユニークな読書法などたくさんの「より道」をしながら本の世界の愉しさを語る。 「BOOK」データベースから

井狩氏の本の3冊目です。取次店勤務の方だけに、売れる本、売れた本についての言及が多いし、また、猪狩氏のエッセイではその手の話が面白い。

初出は『新刊全点案内』(図書館流通センター)に連載した内容です。一回につき、原稿用紙3枚とのこと。どれも読みやすし。それをサブタイトル五十音順に編集し直してあります。この仕事は著者ではなく、編集者がおこなったものとのことですが。

それにしても、巻末「あとがき」にある、江戸時代の貸本屋が十万軒あったというのには、なんだか疑問です。

p218
『大江戸えねるぎー事情』(講談社文庫)という石川英輔氏のなんとも興味深い著書によると、江戸時代の庶民は、貸本屋から本を借りて読むことが多かったそうである。
本は高価で、本屋からはなかなか買えなかった。そこで貸本屋が、本の流通の主役になったのだ。貸本を借りる家は、全国で十万軒あったという。大変な読書人口である。現在では、エッセイが一万部以上売れると出版社も著者も満足し、十万部となると、これ以上の喜びはないというくらいなのに、江戸だけで十万軒というのはスゴイではないか。ひょっとしてひとりあたりの読書量は、現在東京に住む人たちよりも多かったかも知れない。
江戸の本好きたちは、現代人よりも恵まれていた点がある。貸本であるから、自宅の本の置き場所を考えなくてもすむということも、そのひとつだ。たまりすぎた本たちを横目に、家人に気を遣いながら本を買わなくてもいいのである。だいいち、借りるのであるからお金も安くすむ。おまけに、貸本屋は、風呂敷包みに本を背負って届けてくれるのだ。読者は貸本屋が来てくれるのをのんびり待っていればいい。
安くて、届けてくれて、本の置き場所の心配もない。出版社は本を大量につくる必要もない。全部が全部、貸本ではなかったにしても、江戸時代は、人も本も幸せだったといえそうだ。