座談会 昭和文学史 第一巻 井上ひさし 小森陽一 編著 集英社 2003年9月10日 第1刷発行 |
間に挟まれている栞の紐が色違いで2本。巻末の索引も充実。企画がしっかりしているということでしょうか。それにしては、井上ひさし氏と小森陽一氏によるゲストを呼んでの対談は、なんだかもったいないほどの印象。
新企画だ、といわれればそれまでかもしれませんが、中身が濃いだけに、いくら勉強家のお二方であっても、ゲストに呼ばれた重鎮(それでも若いかな)が、すれ違い、わからんかな、と思われることがたくさんあったのではないでしょうか。
いくら本文(テクスト)を読み込んでも、あるいは文献を読んでも、このお二方では年季が違うと申しましょうか。しかし、出版されたこの時点では、ふさわしい人選だったのでしょうか。悩むところでした。
第一章加藤周一氏ゲストによる大正から昭和への文学史、第二章中村真一郎氏ゲストによる芥川と谷崎の違い、第三章阿川大尉ゲストによる志賀直哉の神様ぶり。どうも、井上・小森両氏の対談内容が薄っぺら、付け焼き刃のような。
っと、注文ばかりつけていても仕方ありませんね。これだけの分量をもった本を読めるという幸せは、十分味わうことができましたから。
第二章、芥川が名文意識に振り回されたエピソード、面白し。
p158
井上 芥川は文章をつくるのに名文意識に振り回されて進退窮まった感じがありますね。小島政二郎さんが『長編小説 芥川龍之介』の中で言っていることですが、芥川は「で」とか「が」とか、濁点つきの仮名が嫌いで、それらを書くときにはたいへんな心理的抵抗があった。「明るい瑠璃(るり)橙のしたで(「で」に傍点)」というふうには文章が書けないんですね。
中村 「に」になる。
井上 ええ、「で」は汚いと思うのが芥川の感覚。でもこうなると小説は書けませんね。
中村 いや、僕も頑張って「に」を書くんだけれども、必ず編集者に「で」に直されている。
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