[NO.989] 回想の江戸川乱歩

kaisonoedogawa.jpg

回想の江戸川乱歩
小林信彦
メタローグ
1994年10月30日 第1刷
再読

 再読ながらも、本サイトを開設する以前のこと故、記録も記憶も無し。本書の何よりの眼目は巻頭掲載「もう一人の江戸川乱歩」。小林信彦氏と実弟泰彦氏による対談也。
 乱歩氏を間にはさんでの兄弟でのやりとり、雑誌を編集することになったエピソードにわくわく。時代は1950年代後半のこと。乱歩邸の書斎についてあれやこれやを、二人で訪問したときの記憶をまじえて語り合う場面が鮮明に記憶されていました。後半、乱歩氏がらみのエッセイと小説も読み応えがあるものの、やはり巻頭、兄弟による対談は秀逸。

p190
 ぼくの想い出は、時間がたってしまったこともあって、ほぼ楽しいものばかりである。
途中略。
肥満していた植草甚一が酔ってフラダンスを踊るのを眺めている乱歩――そういった想い出ばかりだ。
途中略
 なお、弟とぼくは約三十五年この世界にいるが、対談をしたのは初めてである。
途中略
 それにしても、乱歩がぼくたち兄弟に話しかけるとき、「小林くん」(「小林くん」に傍点)というのが、なんとなく(「何となく」に傍点)ユーモラスだったのを思い出す。
 この対談は一九九四年九月十二日夜に行われた。

 約16年前の対談。肥満していた植草甚一が酔ってフラダンスというのがなんともはや。禁酒するまえのことですね。また、「小林くん」と呼びかける乱歩氏、きっとそのときには生真面目な表情だったのでしょうねえ。
 もっとも、少年探偵団の団長の名前が小林くんだったなんて、もう知らない世代の方が多かったりして。名探偵明智小五郎の名台詞「小林くん」。