[NO.951] 読みなおす一冊/朝日選書509

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読みなおす一冊/朝日選書509
朝日新聞学芸部
朝日新聞社
1984年8月25日 第1刷発行
1997年4月10日 第5刷発行

 実に多彩な選定。しかし、本書を手にした理由はそれだけではありません。選ばれた本よりも、むしろ書き手の顔ぶれがあまりにも時代を感じたから。25年前に選ばれた人々の名前を目次で目にしたとき、今となってはこうした場でついぞ目にすることのなくなってしまった方々ばかりで、その懐かしさにつられてしまったようなもの。

p535
あとがき
 この本は朝日新聞朝刊家庭面(東京本社管内)に連載されたシリーズが基になっています。一九八四年四月の「北杜夫さんと星の王子さまを読む」から始まって「辻邦生さんとワルキューレを聴く」で終わるまで、毎週日曜日の週一回、三年間連載されました。
 読む・聴く・見る機会を逃してきた、あるいは懐かしい小説や音楽、映画をもう一度、という読者のため、古今東西の名作を目利きの方々に手引きしていただく――というのが企画のねらいでした。家庭面という場で、こうした「文化」的、あるいは「教養」色の濃い連載を始めることはちょっとした冒険でしたが、書斎だけでなく、リビングルームでもこの種の記事が歓迎される「時代」であることが感じられたのです。そして読者からの確かな手ごたえに、三年も続くことになりました。
 毎週、取り上げる作品と筆者が変わります。担当者は便宜上、名作シリーズと呼んでいましたが、とくに筆者にお願いしたのは「原典をまったく知らない人にも分かりやすく書いていただく。多彩な読者をもつ家庭面というページを意識していただく」ということでした。
 執筆はそれぞれの分野で一流の方にお願いしましたが、ある老教授は「改めて勉強させてもらった」と告白されました。原作のもつ夢や思想を損なわずに、やさしく紹介するということは、より深い理解が必要、ということなのでしょう。また、ある科学者は「これをぜひやらせてほしい」と日本古典に取り組み、楽しそうに、自信ある独自の解釈を示されました。こうした筆者と作品の組み合わせも、新鮮な読み物となって、「そういう読み方もあったんですね」という、読者のお便りをしばしばいただきました。
 シリーズは、新聞連載後の一九八六、八七年に『名作 読む見る聴く』全三巻として朝日新聞社から出版されましたが、今回はそのうちから、読者の入手しやすい「読む」作品だけを抜きだし『読みなおす一冊』として編集しました。すでに新聞連載から十年ですが、筆者の読み抜いた「この一冊」からは、変わらぬ名作の香りが私たちを誘います。
 新聞連載中は、坂田允孝(現藤沢市芸術文化振興財団理事)、中野正志(現東京本社学芸部次長)の二人の学芸部記者が企画構成を担当しました。
 一九九四年五月
      朝日新聞東京本社学芸部長 天野昌紀

 『名作 読む見る聴く』全三巻、ぜひ手にしてみたいもの。


目次
星の王子様/北杜夫、テレーズ・デスケール/遠藤周作、古今集の桜/馬場あき子、ジーキル博士とハイド氏/岡部伊都子、トム・ソーヤーの冒険/鶴見俊介、ソロモンの指輪/三木卓、お伽草紙/長部日出雄、桜の園/中村雄二郎、にごりえ/瀬戸内寂聴、牛女/水上勉、悪の華/多田道太郎、反橋/竹西寛子、黒い雨/石牟礼道子、雨月物語/水木しげる、美味礼賛/篠田一士、昆虫記/安野光雅、思ひ出/山本太郞、人形の家/田中千禾夫、不思議の国のアリス/高橋康也、赤と黒/黒井千次、伊勢物語/大庭みな子、嵐が丘/佐藤愛子、風と共に去りぬ/猿谷要、教師館の殺人/田村隆一、リア王/つかこうへい、大尉の娘/三浦哲朗、嘔吐/開高健、シッダルーダ/青野聰、八木重吉詩集/三浦綾子、ろうそくの科学/中山茂、百人一首/杉本秀太朗、雪/樋口敬二、レベッカ/夏樹静子、貧しき人々/後藤明生、日和下駄/都筑道夫、響きと怒り/津島佑子、第二の性/寿岳章子、古代への情熱/上原和、遠野物語/前登志夫、福翁自伝/永井道夫、チップス先生さようなら/今江祥智、唐詩選/陳舜臣、赤毛のアン/立原えりか、ツァラトストラかく語りき/梅原猛、わたしが子どもだったころ/なだいなだ、モンテ・クリスト伯/中島梓、ライ麦畑でつかまえて/三田誠広、わが名はアラム/五木寛之、吶喊/駒田信二、クレーの日記/富士正晴、銀河鉄道の夜/手塚治虫、愛するということ/宮田光雄、ゴッドファーザー/常盤新平、せみと蓮の花/松谷みよ子、戦艦大和ノ最後/安田武、夜と霧/曾野綾子、きけ わだつみのこえ/結城昌治、春琴抄/三木稔、枕草子/杉本苑子、老人と海/佐伯彰一、風立ちぬ/中村真一郎、たのしい夕べ/神宮輝夫、シャーロック・ホームズの冒険/別役実、樅ノ木は残った/山田宗睦、小公女/重兼芳子、チャップリン自伝/淀川長治、東西遊記/大岡信、さすらいのジェニー/上野瞭、生きがいについて/上田三四二、グリム童話集/河合隼雄、恐竜物語/藤竹暁、世間胸算用/藤本義一、山家集/堀田善衛、トリスタンとイゾルデ/佐藤忠夫、渋江抽斎/加藤周一、今昔物語集/もろさわようこ、人魚姫/森崎和江、闇の絵巻/吉村昭、死者の書/岡野弘彦、白鯨/阿部謹也、測量船/中野孝次、聊斎志異/眉村卓、山月記/大岡昇平、ヘンリー・ライクトフトの手記/阿部昭、裸のサル/山下洋輔、路上/長田弘、欲望という名の電車/江守徹、大菩薩峠/尾崎秀樹、セールスマンの死/三浦朱門、紅楼夢/杉浦明平、ドリトル先生アフリカゆき/金井美恵子、サンドリヨンまたは小さなガラスの靴/巌谷国士、博物記/奥本大三郎、蕪村句集/芳賀徹、おくのほそ道/加藤楸邨、ヘリオット先生奮戦記/畑正憲、土/山下惣一、マレー欄印紀行/立松和平、アンネの日記/澤地久枝、ドレフュス事件/村上光彦、孤島の鬼/中井英夫、夜明け前/井出孫六、銀の匙/岸田衿子、冥途/種村季弘、鶏の卵ほどの穀物/米倉斉加年、忍者武芸長/副田義也、草迷宮/前田愛、ジェーン・エア/落合恵子、ガラスの鍵/北方謙三、怪談/入沢康夫、曽根崎心中/篠田正浩、金閣寺/磯田光一、あなたに似た人/森瑶子、クリスマス・キャロル/小池滋、東海道中膝栗毛/野口武彦、歳時記/高橋睦郎、風姿花伝/矢内原伊作、奇岩城/紀田順一郎、北越雪譜/目崎徳衛、野菊の墓/近藤芳美、源氏物語/伊東俊太郎、老妓抄/大城立裕、動物記/伊藤比呂美、百年の孤独/清水徹、人類の星の時間、モオツアルト/三浦雅士、さまよえる湖/椎名誠、アポリネール詩集/塚本邦雄、異邦人/池田満寿夫、ビリタニキュス/田辺聖子、あとがき、作者と作品