[NO.875] 毒書案内/人生を狂わせる読んではいけない本

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毒書案内/人生を狂わせる読んではいけない本
石井洋二郎
飛鳥新社
2005年12月14日 第1刷発行

 なんだかなあ。まあ今さらってところか。手にした自分が悪かった。お勉強風。ホントのところ、もっと大変な本はあるぞ。サブタイトルが寂しい。

 出版の経緯を読むと、まあそうか、と納得。「あとがき」によれば
p197
 二〇〇五年の三月、勤務先の大学で『教養のためのブックガイド』(東京大学出版会)という本が出版されました。
途中略
私もそこに「読んではいけない本十五冊」という小文を寄せ、道に迷ったときに「一条の光明をもたらして進むべき方向を照らし出してくれる」書物よりも、むしろ「それを読んでしまったために、なお一層森の奥深くに迷い込んでしまうような」書物を挙げるという、いささかアイロニカルな役回りを引き受けさせていただきました。本書は、そのささやかな文章が出発点となって書かれたものです。
 良心的な点といえそうなのが文庫版で容易に入手可能なものに限定するという方針で選定したので、この条件に適さないいくつかの作品は取りあげることができなかったとして、倉橋由美子『聖少女』、ロレンス・ダレル『黒い本』、ブーレーズ・サンドラール『世界の果てまで連れてって』を挙げてます。うーむ。

p199
仕事柄、本を読むことは日常の一部をなしてはいますが、その大半は何らかの必要に迫られての読書であって、何の目的もなく行き当たりばったりに本を手に取るという経験はますます少なくなる一方です。したがってここに挙げた書物も、気がついてみれば十代の後半から二十代の前半にかけて出会ったものがほとんどでした。以下略
 ますます、唸るしかない。こちらはまさしくその行き当たりばったりに本書を手にしているのですから。

目次

まえがき

第一章 死の誘惑
太宰治『人間失格』
人間として生きられない人間の悲惨な生涯

ヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテ『若きウェルテルの悩み』善女の顔をした悪女に殉ずる青年の悲劇

原口統三『二十歳のエチュード』
少年少女の夭折(ようせつ)願望を刺激する若き魂の記録

ジャン=ジャック・ルソー『孤独な散歩者の夢想』
生と死の境界線を消滅させる甘美な思索の書

トーマス・マン『ヴェニスに死す』
少年の妖しい美に魅せられた中年作家の死

第二章 異界の迷宮
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』
少女というトリックスターの異界めぐり

安部公房『砂の女』
砂の世界に囚われた失踪者の新しい日常

フランツ・カフカ『審判』
自分の知らない罪によって裁かれる恐怖

埴谷雄高『死霊』
嗜好の実験室で培養された観念小説の極北

夢野久作『ドグラ・マグラ』
読者の現実感覚を崩壊させる記憶の迷宮

第三章 揺らぐ自我
アルチュール・ランボー『地獄の季節』
鮮烈なイメージが炸裂する天才の散文詩

ライナー・マリア・リルケ『マルテの手記』
パリを彷徨する孤独な青年の心象風景

永山則夫『無知の涙』
獄中で自我に目覚めた連続射殺魔の手記

フョードル・ドストエフスキー『地下室の手記』
自意識の病を分析する「ニート」の独白

フリードリッヒ・ニーチェ『ツァラストゥストラ』
読者の魂を焼き尽くす神なき世界の黙示録

第四章 迷走する狂気
島尾敏雄『死の棘(とげ)』
夫婦の愛憎の極限を描く凄惨な私小説

三島由紀夫『金閣寺』
美を滅ぼすことに憑かれた青年僧の告白

アドルフ・ヒトラー『わが闘争』
世界を破滅へと導いた反ユダヤ思想のバイブル

大岡昇平『野火』
戦争という狂気が生み出す人肉食の悪夢

ルイ=フェルディナン・セリーヌ『夜の果てへの旅』
呪詛(じゅそ)と憎悪が生み出す暗黒の叙事詩

第五章 性と暴力
大江健三郎『われらの時代』
疾走する文体で読者を揺さぶる挑発的作品

ヘンリリー・ミラー『北回帰線』
性の躍動と欲望の噴出を歌い上げる言葉の奔流

ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』
麻薬常習者の錯乱が生み出すおぞましい幻覚

ウィリアム・フォークナー『サンクチュアリ』
「聖域」で繰り広げられる変質者の陰惨な暴力

中上健次『千年の愉楽』
「路地」に生まれた若者たちの沸騰する生と死

第六章 官能の深淵
谷崎潤一郎『鍵・瘋癲(ふうてん)老人日記』
観念の世界で欲望を駆り立てる男たちの痴態

川端康成『眠れる美女』
死臭漂う宿で老人たちが営む性の秘儀

ウラジミール・ナボコフ『ロリータ』
中年男を「萌え」させるニンフェットの魔力

河野多恵子『幼児狩り』
幼い男児を物色する女の歪んだ欲望

江戸川乱歩『芋虫』
人間が人間であることの極限に触れた短篇

第七章 背徳と倒錯
マルキ・ド・サド『悪徳の栄え』
残虐行為の快楽を称揚する悪の哲学

ジョルジュ・バタイユ『眼球譚(がんきゅうたん)』
読者に嫌悪と嘔吐を催させる究極の背徳

沼正三『家畜人ヤプー』
マゾヒストの奇想が構築した倒錯のユートピア

ジャン・ジュネ『ブレストの乱暴者』
泥棒作家が描き出す殺人と男色の異様な世界

ロートレアモン『マルドロールの歌』
野生の言語が繰り広げる荒唐無稽な幻想文学

あとがき
文庫版書誌一欄

 こうして目次を写していて、気恥ずかしくなって......。原因はそれぞれに付けたコメントでしょう。どれもこれもまあ。とても21世紀とは思えず。直球勝負といえばいいのか、これまでの時代はなんだったのか。
 著者のお生まれを見直してしまいました。1951年。'71年に20歳ですか。『三太郎の日記』を思い浮かべてしまいました。生意気盛りな頃に、敢えて旧制高校生の定番に軒並み挑戦したという偏屈なところがあったもので。
 青少年向けなのかとも勘ぐってみたものの、今どきの彼らからは余計にすれっからしの過激な感想が飛んできそう。

 ところで「あとがき」の次に並んでいる「文庫版書誌一欄」の「一欄」って、誤植じゃないですよね。ATOKでも「一覧」でしか漢字変換してくれず、「一欄」が国語辞典にもなさそうなので。