[NO.872] 古本漁りの魅惑

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古本漁りの魅惑
高橋輝次 編著
東京書籍
2000年3月21日 第1刷発行

 あの高橋輝次氏の編著。面白し。数えると46名(それもみな腕っこきの古書通の先達ばかり)の文章を集めたもの。どれも表紙の写真掲載。白黒で写りが良くないのが残念。

本書出版の概要めいたことが書いてあるので、 はじめに から引用
 今回、収録した文章のうち、古いもののほとんどは私が古本漁りや目録注文でそれなりに苦労して見つけたものである。それらをアンソロジーにまとめる編集作業は趣味と仕事が珍しく一致した楽しい時間であった。
 本書は、著名な作家、文学者や学者の中でもとりわけ古書好きの方々が、自己の人生途上で、洋の東西にわたって出会った古本屋や店主たちのおもかげ、古書をめぐる珍談、奇談、不思議な因縁、古書へのうんちくなどを、生き生きと楽しげに、ゆったりとした筆致で綴っており、さすが名筆家の手になるだけに、どれもこれも興趣が尽きない。また、古本屋巡りに伴う当時の風景や時代の気分、匂いまでも伝わってきて、懐かしさに満たされる文章が多い。万事にゆとりがなく、スピードアップされた現代とは別ののんびりした時間がここには流れているようである。
 本書に措かれた古本屋や店主の大半は今はもう亡い。読者の中には、あああの店だ、あの主人だと自分の経験に重ね合わせて懐かしく思い出される方もあろう。それらの記憶を活字の上だけでも拾い集め、一冊にまとめておくことは、精神史の上でも意味があるのではなかろうか。また私のような編集者にとっては、表面には出てこないが、ここに取り上げられた数々の古書たちを愛着をこめて世に送りだした江戸、明治以来の出版社や編集者たちへのオマージュの意味もこめられている。


 p110「消えた来世の古本屋」結城信一 は山王書房と店主関口良雄氏のこと。初めての出会いから店主が亡くなって閉店のことまで、いい文章です。巻末に結城信一氏の紹介の中「著作権継承者の方が見つかりません。どなたかお心当たりの方はご連絡願います」の表示。

 p218「座右に三冊の本ありき」山崎朋子 にはペリカン書房店主品川力氏のこと。自転車で届けたという逸話。そういえば、筑摩書房のPR誌『ちくま』今月号表紙は林哲夫氏の描いたペリカン書房。それも扉の閉じたままの。ちょっと淋しい。


底本一覧
I 私の古本漁り
奥野信太郎「奥野信太郎集」日本書房・昭和33年
小島政二郎「居心地のいゝ店」北洋社・昭和50年
上林 暁「文と本と旅と」五月書房・昭和34年
八木義徳「北の文庫第23号」北の文庫の会・平成6年
森万紀子「本の本」ボナンザ・昭和51年
阿部 昭「エッセーの楽しみ」岩波書店・昭和62年
天野 忠「そよかぜの中」編集工房ノア・昭和55年
紅野敏郎「出版月報」白地社・平成5年
保昌正夫「七十まで」朝日書林・平成7年
福原麟太郎「福原麟太郎随想全集2」福武書店・昭和57年
窪田般彌「ふるほんや第7号」いてふ書店・昭和62年
杉原四郎「萬巻四号」大阪古書研究会・平成11年
長田 弘「感受性の領分」岩波書店・平成5年

 Ⅱ 心に残る古本屋
岩佐東一郎「随筆くりくり坊主」書物展望社・昭和16年
山田風太郎「風眼抄」中公文庫・平成3年
安藤鶴夫「ごぶ・ゆるね」旺文社文庫・昭和55年
秋山 清「壷中の歌」仮面社・昭和49年
中野重治「三軒茶屋古書日録」三茶書房・昭和46年
尾崎一雄「書物展望」書物展望社・昭和11年
結城信一「作家のいろいろ」六興出版・昭和54年
佐野眞一「本の話」文藝春秋・平成9年8月号
高田 宏「本との日々」ジャパン・ミックス 平成9年

 Ⅲ 異国の古本屋
松村武雄 「朗かな斜視」明星書院・昭和6年
市河三善 「読書と散歩」帝国大学新聞社出版部・昭和9年
野口米次郎「米次郎随筆」第一書房・大正15年
竹友藻風 「鶺鴒」七丈書院・昭和17年
斎藤 勇 「東京堂月報」東京堂・昭和15年
鈴木信太郎「文学付近」白水社・昭和11年
山口青邨 「わが庭の記」龍星閣・昭和17年
田口 稔 「読書遍路」吐風書房・昭和17年
梅棹忠夫 「本の旅人」角川書店・平成10年1月号
猪瀬直樹 「僕の青春放浪」文春文庫・平成10年

 Ⅳ 私の掘出し本
石割松太郎「ずいひつ世話もの談義」誠光社・昭和22年
藤木秀吉「武蔵屋本考その他」非売品・昭和15年
平野 謙「随筆集はじめとおわり」講談社・昭和46年
喜志邦三「木曜詩話」交蘭社・昭和14年
百田宗治「蓬莱」有光社・昭和18年
田辺聖子「歳月切符」筑摩書房・昭和57年
山崎朋子「ひと足ずつ」光文社文庫・昭和62年
阿川弘之 「鮎の宿」六興出版・昭和55年
戸板庸二 「午後六時十五分」三月書房・昭和50牛
木俣 修 「煙、このはかなきもの」三月書房・昭和50年
中西 進 「父の手」本阿弥書店・昭和64年
穎原退蔵 「古典と錦檜」杉本梁江堂目録・昭和9年
城 市郎 「紙喰蟲」斜陽館・平成10年
高橋輝次 「月刊美術」サン・アート 平成11年4月号