[NO.851] 書物/ワイド版 岩波文庫175

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書物/ワイド版 岩波文庫175
森銑三 柴田宵曲 著
岩波書店
2001年1月16日 第1刷発行

 ワイド版の文庫、読みやすし。軽く読み飛ばすにはもったいない内容。熟読玩味。こんな本を昭和19年に出したということに驚き。

 解説が中村真一郎なので、江戸以前の本のことかと思ったところ、明治以降についても記述多し。児童書にまで触れているのですから。いやはや。

p22
 書物は好きか、と問われるなら、言下に「好きだ」と答えよう。それなら書物を多数に蔵しているか、といわれると「いや」と答えなくてはならぬ。天下に誇るに足る書物など、何一つ持っていない。そうした稀覯書(きこうしょ)はさて置いて、仕事に必要な参考書の類すらも揃(そろ)えていない。これまでは図書館や書物のある役所に勤めていて、そこの書物を使って用を足して来た。それでどうしてもなくてはならぬはずの書物すら持っていないのが多いし。だから今でも大抵は図書館へ出かけて行って仕事をする。物を書く人間で、私くらい書物を持っていない者も少いかも知れない。かえって蔵書の乏しいことを誇ってもよいくらいである。
 私は一向に書物を買わない。たまたま買えば、あってもなくでもどうでもよいようなものばかり買う。しかし近頃(ちかごろ)はそれも、かようなものを読んでいては時間が潰(つぶ)れる、仕事に差支(さしつか)える、置き場所にも困るなどと思い返して、一方では買ってもいいと思いながらも、買わずにしまう場合が多い。