[NO.827] 河岸の人々の暮らし/金石文が語る利根川物語 1

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河岸の人々の暮らし/金石文が語る利根川物語 1
榎本正三
崙書房
1990年5月20日 発行

 ソフトカバーながらも、中身は充実。石造物の写真やデータも掲載。

はじめに
 途中略
「板子一枚下は地獄」といわれている言葉があるが、船上での仕事は死にもつながる危険と常に隣り合わせていることを意味している。船に乗って働く人たちは船中安全を願って、神仏の加護にすがろうとする強い心情に支えられているという。新造船には船霊(ふなだま)さまを祀ったり、舟運の守護神として著名な金比羅神社、住吉大社、大杉神社、水神社、水天宮などの神々を勧請したり、平素信仰している寺社の境内に常夜燈、手水石、狛犬などの石像物を奉納するという根強い風習がある。利根川水系下流地方の各河岸場においても全く同じことであって、これらの各種の石像物が遺存されているが、それらのものを中心にし、絵馬や古記録などの助けをかりて、河岸の人々の暮らしの一端を考察した

目次
木下河岸
一 筑前博多から勧請された吉岡問屋の水天宮
二 木下河岸にあった水天常夜燈と水神宮
 1 水天常夜灯
 2 水神宮の行方
三 不動尊に建てられた幻の常夜燈
四 蒸気船名が刻まれた狛犬
五 舟運関係者などが祀る金比羅の石宮
 1 岩井家の屋敷金比羅
 2 松屋の屋敷金比羅と金比羅相撲
 3 観音堂に祀られた粉名屋の金比羅石宮
六 木下河岸にあった川鮮問屋
七 道標が語る木下河岸への道
 1 武州から木下河岸を経て成田山への道
  (1)武州の人々が残した成田山街道筋への道標
  (2)永代護摩木山奉納石塔から見た成田山への道
 2 常州から木下河岸への道
 3 てうし道と大杉神社への道
  (1)大杉神社への道
  (2)銚子への道
八 木下河岸の女たち
 1 船頭小宿の女たちによって建てられた常夜燈
 2 河岸で旅人や船頭などの相手をしていた瞽女(ごぜ)
 3 河岸の女たちの石神信仰
九 利権を求めてやってきた商人連が奉納した手水石
十 馬まち馬頭観世音
仙助河岸(六軒河岸)
一 仙助河岸に祀られていた水神宮
二 仙助河岸の人々が奉納した常夜燈と力石
三 記録からの仙助河岸の推理
四 仙助河岸から始められた六軒の水神相撲
五 干鰯が荷揚げされた仙助河岸と干鰯の流通
 1 銚子場にある祈念碑
 2 江川にある祈念碑
 3 永代場の干鰯問屋が奉納した燈籠
 4 房総の網元が奉納した手水石
 5 大阪住吉大社にある常夜燈
 6 伊勢松阪の常夜燈
六 江戸屋喜兵衛と梁川星巌
七 仙助河岸と塩の道
蒔俵河岸
一 閉塞造成碑と将藍川
二 石像物から見た蒔俵河岸
 1 蒔俵河岸の道標
 2 蒔俵河岸にあった水難供養塔
三 言い伝えの中の蒔俵河岸
布佐河岸
一 網代場の観音堂と日本橋魚がし手水石
二 鮮魚輸送路の馬頭観音
 1 布佐坂旧道路傍の馬頭観音
 2 鮮魚輸送路と馬頭観音
三 利根川鮭と漁不動尊
四 河岸の人々が奉納した竹内神社の石造物
 1 日本橋魚河岸問屋が奉納した手水石
 2 稲荷神社に奉納された常夜燈と狐石
 3 船持神社によって祀られた水天宮
 4 船中安全を願って奉納された御神燈
五 布佐河岸と鮮魚街道の石造物
 1 関枠橋袂の馬頭観音
 2 発作下厳島神社の石裂山(おざくさん)道標
 3 発作上最勝院跡の道標
 4 亀成の道祖神
 5 鮮魚街道筋を示す亀成の庚申塚
 6 北総の代表的な浦部の百庚申
 7 布佐河岸の人々が奉納した石尊様の狛犬
 8 富塚鳥見神社の切られ庚申
 9 藤ヶ谷の常夜燈
六 芭蕉や一茶が通った道(仮説)
 1 芭蕉の通った道
 2 一茶の通った道
中峠河岸(芝原河岸)
一 波徐不動尊
二 上根古屋水神社と船仲間講中奉納の手水石
三 中峠河岸の蒸気船海運丸
四 順礼の道と渡船場河岸
小堀(おおほり)河岸
一 若者中によって奉納された水神社の常夜燈
二 成田山の紋章が刻まれた常円寺の常夜燈
布川河岸
一 奧川筋船積問屋布川屋庄左衛門が奉納した手水石
二 布川神社の船玉宮と船頭たちの船霊信仰
 1 船中に祀る船霊様
 2 屋敷神として祀る船霊の石宮
 3 河岸にある神社に祀る船霊の石宮
 4 境内社として祀られている船霊様
 5 水神講の掛軸になっている船霊様
三 導了大薩■【土偏+垂】に奉納されている常夜燈
四 布川河岸の文化を語る石造物
 1 赤松宗旦義知と『利根川図志』
 2 素丸に入門した久保田一夢斎
 3 星野一楽を取りまく石造文化財
 4 杉野東山の心経碑
 5 小林一茶の句碑と布川河岸の俳人
押付河岸
一 船仲間中が奉納した手水石
二 船頭たちの交流を物語る力石
三 渡船場河岸を立証する庚申道標
四 水神社に奉納された絵馬
戸井田河岸
一 戸井田河岸の水神宮
二 新四国相馬霊場八十八ヶ所順礼道と船宿伊勢屋の常夜燈
藤蔵河岸
一 河岸の繁栄を語る象頭山常夜燈
二 藤蔵河岸と大野我羊
田川河岸
一 雨降山(あふりざん)、象頭山常夜燈
二 岩橋一白と小林一茶
参考・引用文献
あとがき

 この本のすごいのは、いちいちその場まで足を運んでいるところ。利根川筋だけでなく、街道にまで出かけています。
 武州からの成田道として、埼玉県岩槻にまで追跡しているのには驚き。さらに北は群馬県川俣にも。恐れ入りました。