美妙、消えた。 嵐山光三郎 朝日新聞社 2001年9月1日 第1刷発行 |
単に温泉旅行記を書いているばかりではなかったのですね。編集長氏。読み応えのある小説。
それにしても、くらーくなる話です。疲れた夜なべに読んで、翌日、くらーい日を過ごすことに。はあ~。樋口一葉の評伝を読んだときにも、同じような気分になったけれど、今回はそれを上回るほどのやり切れなさに襲われました。
山田美妙が失敗したり、挫折するたびに挿入される2・3行の嵐山氏による分析のような解説が面白い。「そこがマズイんだよ!」と呼びかけているような気がして。力をこめて肩入れしているかのようにコメントが入ります。たとえば、
p146
美妙は、硯友社をやめるときも、金港堂をやめるときも、相手にきちんと相談せず、一人できめた。そういった為体(ていたらく)が友人を失っていくことに気がつかない。
内容は暗くとも、嵐山編集長の筆は、あくまでも明るく明治の青年たちを描きます。エピソードの積み重ねは臨場感にあふれ、まるで漫画『『坊っちゃん』の時代』を読んでいるよう。
文学史というよりも、実業界で一旗揚げ損なった明治の青年の話みたい。それというのも、原稿が売れてこそなんぼのもの、といった金銭的なことが尾を引いている印象が強かったもので。
そういえば昔から伝えられている言葉に「運・根・鈍」なんてえのもありましたっけ。
坂崎重盛氏が本書を企画してつねに激励してくれたというのをあとがきで読み、嬉しくなりました。やるなあ、坂崎氏。
ついでに、あとがきを読んでの感想をもう一つ。
p309
美妙に興味を抱いたのは十五年前のことで、文語体より口語体、つまり話し言葉の文章を始めた人というところにひかれた。そのころの私の文章は「昭和軽薄体」という形でくくられ、「正しい日本語を乱す者」として指弾された。以下略
懐かしい響き「昭和軽薄体」。椎名誠氏なんぞも、その一派。しかし、「指弾された」という表現はどうかと。
こちらが気づかなかっただけで、当人は嫌な思いもなさったのでしょうねえ。
初出『一冊の本』1998年6月号~2000年11月号に連載。
p20
明治の町を歩く必携本は森林太郎案『東京方眼図』である。明治時代の旧地名が載った地図帳で、親版は春陽堂刊であるが、近代文学館より復刻版が出ている。
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