ぼくの特急二十世紀/大正昭和娯楽文化小史/文春新書627 双葉十三郎 文藝春秋 2008年(平成20年)3月20日 第1刷発行 |
驚きました。双葉十三郎氏、まだご存命であり、97歳にして本書を出されていたのだとは。さすがに口述だといいますが、どうして中身はしっかりしたもの。
前編に散りばめられたエピソードが魅力的でたまりません。こうした些事であっても貴重な話は、もう語ってくれる人物がいないのだろうと思うと、貴重な本だと思います。
p46・47
見開きに掲載してある写真がいい。芝園館、武蔵野館のそれぞれ外観と客席がしっかり写っています。『写真集 幻景の東京――大正・昭和の街と住まい』(1998年、柏書房刊)より、とあります。調べてみると著者が3人。その中には藤森照信氏も。
p98
ぼ くのペンネームは、高校時代、『キネマ旬報』の寄書欄に投稿したころから双葉十三郎です。マーク・トゥエインの「トム・ソーヤーの冒険」が大好きで、その 「トム・ソーヤー」にちなんだ名前です。姓の「双葉」は音読みすると「ソーヨー(ソーヤー)」、名の「十」と「三」は大和言葉では「とお」と「み」、つま り「トミー」で、さらにイタリア式にもじれば「トミオ」、姓と名をつなげれば「ソーヨー・トミオ=双葉十三郎」ってわけ。いい加減につけたんです。ところ が、困ったことに、この時代劇みたいな名前がだんだん変えられなくなっちゃって、やむなく今に至っております。
p128
住友に入社して初めに研修で赴任したのは大阪です。ここに六か月ほどいました。
この大阪時代に、当時住友にお勤めだった源氏鶏太さんからソロバンを教わりました。源氏さんがソロバンの教育係というか先生だったんです。源氏さんは商 業学校出身だからソロバンはうまいわけですよ。あのころはもう二足のワラジで、小説を書いていたんじゃないかと思います。でも、誰も「あの人は二足のワラ ジだ」って言い立てたりしませんでした。だって、歌人の川田順さんという大先輩がいましたからね。川田さんは当時住友の常務です。俳人の山口誓子さんも人 事課次長で、ぼくとは顔なじみだったけど、すでに有名人だった。そういう会社だったんです、住友って。
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