本の旅 大河内昭爾 紀伊國屋書店 1996年8月2日 第1刷発行 |
昭和3年生まれの著者が書く内容は久しく忘れていた純文学、それも正統派私小説について。懐かしく思うと同時に、奇妙な魅力に引き込まれました。つい深夜まで読みふけってしまい、翌日は寝不足。
p194「幻の名作」によれば、昭和二十四、五年頃の学生時代に「早稲田文学」から原稿依頼が来たのだそうです。郷里都城市で書いた原稿「鋳造丸焼却」 は百枚をこす自信作。ところが、闇米と隣り合わせにボストンバックに詰めたところ、粗悪なボールペンで書いた原稿は米の湿度にあおられたのか、すっかり文 字が消えてしまったのだそうです。
茫然自失の大河内氏、編集者に励まされながら小説のかわりに評論を書き、それが運命の分かれ目になった、と結びます。
著者は武蔵野女子大学の学長を務めた名誉教授。文芸評論家。
p241
同人雑誌評
「文学界」の同人雑誌評十年の慰労ということで文藝春秋が香港に招待して下さった。三年前の暮れの話である。ヨーロッパでもよかったらしいが、どうして も私の時間がとれず、香港三泊四日ということになった。当時の田嵜(たざき)編集次長に和賀編集部員のお二人の案内で、松本徹、松本道介、勝又浩と私の六 人のそれこそ楽しい旅だった。編集部の香港通、それに文春でも名だたるグルメ田嵜氏の案内で、昼夜の別なく一流の中華レストランを歴訪した。年末になると 四人がそれぞれよく辞意をもらすので、香港旅行も引き止め策の一つだったかもしれない。この仕事は縁の下の力持ち的なところがあって地味な苦労が多い。以下略
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