[NO.514] 海野弘 本を旅する

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海野弘 本を旅する
海野弘
ポプラ社
2006年4月18日 第1刷発行

サイトナンダロウアヤシゲな日々から抜粋
思 い起こせば、この企画は、ぼくがまだ「本とコンピュータ」をやっていた2004年夏に、ポプラ社のYさんに提案したものなのだった。その後、正式に企画が 通り、海野さんが早々に書きおろしの「Ⅰ」を完成させてくださったにもかかわらず、ぼくの怠慢でなかなか進まなかったのだった。昨年末から追い込みがかか り、多くの方々をやきもきさせながらも、ようやくココまでたどり着いた。

今日は昼からポプラ社に行き、Yさんや、初校から数えて何度もチェックしてくれたスーパー校正者のSさんと一緒に、青焼きを見たのだった。そこでも、いくつか(いくつも?)の間違いが見つかったが、すべて決着をつけて校了した。あとは見本を出るのを待つばかりである。

時間はかかったけど、背にあるように海野さんの「初の読書論」と呼ぶにふさわしい本ができたコトは本当にウレシイ。読みやすくて、深みと広がりのある本になったことには、ささやかな自信がある。みなさん、ぜひ買ってください。


 いやあ、本書は南陀楼綾繁氏の企画だったとは。納得しました。「本」好きというだけでは、ここまで充実させられないでしょう。こういう本を「企画する」というお仕事に、あらためて敬服。

 下記に転記させていただいた「百冊の本の再訪」に、ワクワクさせられました。それぞれの本について、素晴らしいカラー写真まで載っているのです。これらの中から、せめて一冊でも入手できないかと思ってしまいました。
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はじめに
 私にとって本を読むことと世界を旅することは別々のものではない。私は本の中を歩きまわって旅をし、世界を本のように読みたいと思うのだ。
 さまざまな本に出会い、その中を思う存分旅してみたいと思っていたが、この本でその願いは叶えられた。私はこれまで多くの本を書いてきたが、なぜか読書 論をまとめる機会がなかった。おそらく、自分の書棚を見せたり、自分の私的読書について書くのが恥ずかしかったからだろう。今でもてれくさいのだが、思い 切って自分をさらけ出すことにした。私が出会い、面白いと思った本をぜひ他の人に紹介したいと思う気持ちが強くなったからである。
 全体は二つに分けられている。第一部は、私が出会い、影響を受けた百冊の本について語っている。これはかつて、「私の偏愛書一〇〇」をあげよ、という雑 誌のアンケートのためにつくったリストであったが、今回は一冊ずつに、私との関係を書き下ろした。このリストは過去のものであるから、これらの本を読んだ 若い時代が思い出され、なつかしかった。過去に影響を受けた本をたどるうちに、私自身の精神の軌跡が出てきてしまって、なつかしく、また恥ずかしい気分で あった。
 また、このリストによって、自分がこれまでなにをやってきたかが浮かんでくる。そこには(都市)へアンダーワールド)といった私が興味を持ちつづけてき たものへの偏愛がくっきりと示されている。ヴァルター・ベンヤミン、モーリス・メルロ=ポンティ、ロラン・バルト、ガストン・バシュラールなどから受けた 決定的影響をあらためて思い出した。
 第二部は、本に関する多様な切り口を集めている。それぞれ、書いた時のことが思い出されて私にとってはなつかしいのだが、読者の関心をひくことができるだろうか。また、断片ではあるが、その後の一冊の本のきっかけになった文章もある。
 たとえば「国よりは友を選ぶ――E・M・フォースターをめぐる人々」は、『ホモセクシャルの世界史』へとふくれ上がった。「チャンドラーのロサンジェルス」は『カリフォルニア・オデッセイ』全六巻へと発展していった。
 もっとも、いつか一冊の本になるようにと思って書いた文章で、そのまま埋もれているものもある。その方が多いかもしれない。今回は、埋もれていて、書い たことさえ忘れていた文章が甦り、読んでもらえることになった。それらがまだ意味を持ち、生きつづけていることを願っている。

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目次
はじめに1

I 百冊の本の再訪
1エウヘー二オ・ドールス『バロック論』
2ウラヂミル・ウェイドレ『芸術の運命』
3ジャン・カスー『近代芸術の状況』
4アンリ・フォシーヨン『形の生命』
5ル・コルビュジエ『今日の装飾芸術』
6ヴィルヘルム・フルトヴェングラー『音楽を語る』
7瀧口修造『近代芸術』
8土方定一『近代日本洋画史』
9ハンス・ハインツ・シュトゥッケンシュミット『現代音楽の創造者たち』
10ガートルード・スタイン『パリ フランス個人的回想』
11ジャン=ポール・クレスペル『モンパルナス讃歌 一九〇五-一九三〇エコル・ド・パリの群像』
12アンドレ・バサン『ジャン・ルノワール』
13ロラン・パルト『美術論集アルチンボルドからボップ・アートまで』
14岸田劉生『演劇美諭』
15ヴァルター・ベンヤミン『ドイツ悲劇の根源』
16九鬼周遣『「いき」の構造』
17アーシュラ・K・ル=グウィン『世界の果てでダンス ル=グウィン評論集』
18リチャード・セネット『無秩序の活用都市コミュニティの理論』
19ヨハン・ベックマン『西洋事物起原』
20『日本架空伝承人名事典』
21ジャン・ルーセ『フランスバロック期の文学』
22森銑三編『人物逸話辞典』
23ジュリアン・グラック『半島』
24ヴェニアミン・カヴェーリン『師匠たちと弟子たち』
25ミシェル・ビュトール『ミラノ通り』
26デイヴイッド・ロッジ『小さな世界アカデミック・ロマンス』
27ジョン・アップダイク『美術館と女たち』
28ミシェル・レリス『角笛と叫び』
29テス・ギャラガー『馬を愛した男』
30アラン・ロブ=グリエ『幻影都市のトポロジー』
31ウラジーミル・ナポコフ『青白い炎』
32ウラジーミル・ナポコフ『ロシアに届かなかった手紙』
33ルイ・アラゴン『アニセ またはパノラマ』
34トリスタン・ツァラ『旅人の樹』
35イタロ・カルヴィーノ『砂のコレクション』
36フィリップ・ソレルス『ニューヨークの啓示』
37ウィリアム・S・パロウズ『デッド・ロード』
38フィリップ・K・ディック『小さな場所で大騒ぎ』
39エルネスト・デ・マルティーノ『呪術的世界 歴史主義的民族学のために』
40ジュマーク・ハイウォーター『滅びの符合 太陽の帝国アステカの終焉』
41サマセット・モーム『旅の本 東洋旅行記』
42シュテファン・ツヴァイク『昨日の世界 一ヨ-ロッパ人の回想』
43ミシェル・トゥルニエ『メテオール(気象)』
44ウンベルト・エーコ/V・V・イワーノフ/モニカ・レクトール『カーニバル!』
45井伏鱒二『鞆ノ津茶会記』
46赤松啓介『非常民の民俗境界 村落社会の民俗と差別』
47石井良助『江戸の賤民』
48沢史生『紺の日本史 河童鎮魂』
49奥瀬平七郎『忍術 その歴史と忍者』
50村山修一『山伏の歴史』
51八切止夫『八切日本史字典 野史辞典』
52『甲陽軍艦』
53ウラジーミル・プロップ『ロシア昔話』
54鏡味完二・鏡味明克『地名の語源』
55朝倉無声『見世物研究 姉妹篇』
56ドミニツク・フェルナンデス『天使の饗宴 バロックのヨーロッパ、ローマからプラハまで』
57ミシェル・フーコー『知の考古学』
58ロビン・フォックス『人類学との出会い』
59ドナルド・ホーン『博物館のレトリック歴史の〈再現〉』
60H・モンゴメリー・ハイド『ポーノグラフィの歴史』
61E・M・シオラン『歴史とユートピア』
62アンリ・ルフェーヴル『太陽と十字架 ピレネー山脈』
63イポリット・テーヌ『ピレネ紀行』
64沖浦和光『日本民衆文化の原郷 被差別部落の民俗と芸能』
65石上堅『火の伝説』
66郡司正勝『かぶきの発想』
67村山知義『忍びの者』
68戸井田道三『能 神と乞食の芸術』
69『中井正一全集』
70橋川文三『日本浪蔓派批判序説』
71森秀人『甘蔗伐採期の思想 組織なき前衛たち』
72坂口安吾・高木彬光『樹のごときもの歩く』
73花田清輝『アヴァンギャルド芸術』
74オールダス・バックスレー『ガザに盲いて』
75グレアム・グリーン『地図のない旅』
76アナイス・ニン『近親相姦の家』
77W・H・オーデン『第二の世界』
78マシュー・グレゴリー・ルイス『マンク-破戒僧-』
79ヤン・コット『シェイクスピアはわれらの同時代人』
80スティーヴン・スペンダー『世界の中の世界スペンダー自伝』
81ロード・ダンセイニ『影の谷物語』
82ライアル・ワトソン『風の博物誌』
83深田久彌編『富士山』
84アンドレ・シャステル『グロテスクの系譜 装飾空間論』
85ジェーム・サバルテ『親友ピカソ』
86アルマ・マーラー=ウェルフェル『わが愛の遍歴』
87エリック・ギル『衣裳論』
88ハーバート・リード『イコンとイデア 人類史における芸術の発展』
89長谷川伸『股旅の跡』
90石岡久夫『兵法者の生活』
91田村栄太郎『一揆 雲助 博徒』
92河岡武春『海の民 漁村の歴史と民俗』
93小田治『海人族と鉱物』
94綿谷雪『考証武芸者列伝』
95ガストン・バシュラール『大地と意志の夢想』
96ヴァルター・ベンヤミン『都市の肖像』
97モーリス・メルロー=ポンティ『シーニュ』
98アルフレート・デーブリーン『王倫の三跳躍』
99マリオ・バルガス=リョサ『世界終末戦争』
100アレホ・カルペンティエル『光の世紀』

Ⅱ 遊歩者の読書術
本屋さんで買えない本
百年前の年賀状
忘れられたスタイルから世界を語る
美しき本のカルト アートブックの二十世紀
絵を読む、ことばを見る
都市と図書館
遊歩者の視線で情景を読む
昭和モダン洋行案内 人生の楽園は欧州航路にあり
池波正太郎の旅 江戸・東京・パリ
『武蔵野夫人』のカメラ・アイ
都市のアンダーワールド
カブールプ ルーストの浜辺
マドレーヌ菓子に甦る〈失われた時〉
パリのカフェの私の椅子
『吾輩は猫である』ノート
国よりほ友を選ぶ E・M・フォースターをめぐる人々
チャンドラーのロサンジェルス
ウエストコーストのボヘミア サンフランシスコの詩的風土
牡蠣について書く
馬琴と兎園会
澁澤龍彦の庭園
地下室への旅 ガストン・バシュラール『空間の詩学』を原点に
あとがき
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初出一覧
I 書き下ろし


本屋さんで買えない本 『季刊・本とコンピュータ』トランスアート 第二期第九~十二号(二〇〇三年九月~〇四年六月)
百年前の年賀状 『墨』芸術新聞社 二〇〇二年十一・十二月号
忘れられたスタイルから世界を語る 『東京新聞』 二〇〇五年十一月六日
美しき本のカルト 『美術手帖』美術出版社 一九九七年八月号
絵を読む、ことばを見る 『早稲田文学』早稲田文学会 一九八六年四月号
都市と図書館 『びぷろす』国立国会図書館図書館協力部 第三十七巻五号(一九八六年五月)
遊歩者の視線で情景を読む 『朝日ジャーナル』朝日新聞社 一九八六年四月臨時増刊号
昭和モダン洋行案内 『太陽』平凡社 一九九七年四月号
池波正太郎の旅 『池波正太郎の世界展』世田谷文学館 二〇〇四年四月
『武蔵野夫人』のカメラ・アイ 『CABIN』中尾務 第五号(二〇〇三年三月)
都市のアンダーワールド 『現代詩手帖』思潮社 一九九五年十月号
カブール 『青春と読書』集英社 一九九七年十月号
マドレーヌ菓子に甦る(失われた時) 『作家の食卓』 平凡社 二〇〇五年七月
パリのカフェの私の椅子 『CIGAR』 ワールドフォトプレス 第三号(一九九八年十二月)
『吾輩は猫である』ノート 『漱石研究』翰林書房 第十四号 (二〇〇一年十月)
国よりは友を選ぶ 『ユリイカ』青土社 一九九二年入月号
チャンドラーのロサンジェルス 『レイモンド・チャンドラー読本』早川書房一九八八年九月
ウェストコーストのボヘミア 『現代詩手帖』思潮社 二〇〇一年二月号
牡蠣について書く M・F・K・フィッシャー『オイスターブック』平凡社ライブラリー 一九九七年十二月
馬琴と兎園会 『新編日本古典文学全集』第八十四巻月報 小学館 二〇〇〇年六月
澁澤龍彦の庭園 『澁澤龍彦事典』 平凡社 一九九六年四月
地下室への旅 『TOTO通信』東陶機器 第六号 (一九九六年十二月)

*収録にあたって、初出時のタイトルを一部変更しました → 表紙のカラー画像あり(別サイトには添付済み)