[NO.512] 古書Ⅱ/日本の名随筆 別巻72

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古書Ⅱ/日本の名随筆 別巻72
編者 紀田順一郎
作品社
1997年2月20日 第1刷印刷
1997年2月25日 第1刷発行

 昭和軽薄体の古書関連本が多い中、こうした本を読むと、しっとりします。そういえば、本にまつわる話題に関してであっても、いつごろからこうした落ち着いた文章が無くなってしまったのでしょうか。やっぱり、『さらば国分寺書店のオババ』あたりから? 
 それでも、こうして筆者名を見ていると、新しい書き手が多いことに驚きます。せいぜい第三の新人あたりまでで若手が終わりだったころの、こうしたエッセ イ集が読みたくなってきました。福永武彦が巻頭ですから、なんともはやです。鈴木信太郎もありますが、杉浦明平の書く立原道造がいいですねえ。高村光太郎 の詩集「道程」を杉浦に取られて泣きべそをかいたというエピソード。この文章は他でも読んだ記憶がありました。

p149
その後、約二年ほどは、ひまさえあれば本郷へ出かけて、フランスの挿絵黄金期の本を探し回った。ほこりにまみれて、医学書屋と自然科学書屋のうすぎたない洋書棚をあさりまわった。
 荒俣宏氏『「人間がつくってはいけない」本のこと』からの引用です。なんでも、4万5千円で購入したものが、その後イギリスの古本屋から200万円で売り出されたのだといいます。その他にも、すばらしい図版の本が6千円だったとか。
 これを読んだときに、頭の中がくらくらしました。いったい何年頃の話でしようか。荒俣氏が会社勤めを止めたのが1979年。上記の出典『妖精画廊PARTⅡ-夢を描く絵師たち』(月刊ペン社)の刊行が1981年7月です。
 たまたま春日町に友人が住んでいたので、この五、六軒かたまっていたという自然科学系の古本屋を、1976年頃、何度も回っていたものでした。もっとも、何万円もの資金はありませんでしたが。

p185
いまでは反町茂雄という、古本界の大英雄が、このセドリ式の商法で巨利を得、かつ、世界でも有数に信用の厚い古書店主として名声を博したので、セドリもバカにされなくなった。(途中略)反町氏の功績は、その点ひくくはないが反町氏の仕事の大きさにもかかわらず、本を右から左へ移動させるだけで、巨利を博する作業が、店を構えた正式古書店に歓迎されない商売であることも知っておくべきだろう
 なんともはや、すごい指摘です。神保町、巌松堂の長男、波多野完治氏「体験的古本屋論」から引用。

目次
福永武彦/古書漫筆
成瀬正勝/古書合戦記
井上究一郎/ある古い詩集
中西進/初冬好日
田宮虎彦/岩波文庫のはじめ
高橋輝次/古本屋時代の島木健作 絶版文庫で「煙」を読む
三輪福松/文庫蒐集の思い出
野上彌生子/『猫』紛失の記
横田順彌/吾輩がいっぱい
出久根達郎/漱石を売る
青木正美/足穂の書物観
八木福次郎/江戸川乱歩氏
久世光彦/うつし世はゆめ
山田洋次/売れなかった『ぼく東綺譚』
菊地信義/道行
島尾敏雄/書物と古本屋と図書館と
串田孫一/めぐりあい・別れ 本とつきあう法6
寿岳文章/向日庵夜話(抄)
鈴木信太郎/愛書雑談
宮下志朗/パサージュのなかの本の風景
安野光雅/ファーブルの植物記 えぶりしんぐ2
荒俣宏/「人間がつくってはいけない」本のこと
鹿島茂/古書の値段
小林静生/古本の値段
佐藤達生/北京古書事情
平戸喜文/"署名本〝あれこれ
橋本万平/虫入り本
林望/書縁結縁 書薮巡歴25
波多野完治/体験的古本屋論
杉浦明平/古本屋彷捏
瀧澤龍崖/古本屋の話
野間宏/古本屋歩きは心の鎮静作用を滴足させる
植草甚一/本の話だとすぐ古本屋歩きのことになる
川本三郎/中央沿線の古本屋の思い出
土家由起雄/五厘本と子どもたち
藤井正/古書の町に救われた命
紀田順一郎/古書売却論