小説の羅針盤 池澤夏樹 新潮社 1995年4月20日 発行 |
再読。古いのですが、読み応えあり。
p114
知性と南風
芥川龍之介は三十六歳でなくなり、中島敦(あつし)は三十四歳で死んだ。単純な引き算をすればその差はたった二年だけれども、この二つの死の意味はまる で違う。芥川は死を迎える前に作家として完了していた。書くべきものを書き尽くしてから死んだと言ってしまってもいいくらいだ。それに対して、中島敦はこ れからというところだった。
中島敦が未完成だったというつもりはない。彼はちょうど完成に至ったところだったのだ。ようやくそこに辿りつき、これからは縦横無尽、どんなものでも書けるという時期を前にして、そこで病に倒れた。(以下略)
初出一覧(タイトルを変えたものもあります)
雨月と春雨の間 『新潮古典文学アルバム20 上田秋成』 (一九九一年七月、新潮社)
神を前にしての絶望は罪である 『イデー選書 キルケゴール 死にいたる病/現代の批判』(一九九〇年一〇月、
白水社)
文学の設計者 『群像日本の作家2 森鴎外』 (一九九二年五月、小学館)
生活と悪夢の人 『新潮日本文学アルバム42 内田百聞』 (一九九三年一二月、新潮社)
詩人としての日夏耿之介 『詩人日夏耿之介』 (一九七二年六月、新樹社)
あまりにも二十世紀的 『新装世界の文学 セレクション36 ヘミングウェイ』 月報 (一九九三年一一月、中央公論社)
知性と南風 『ちくま日本文学全集 中島敦』 (一九九二年七月、筑摩書房)
二つの仮定 中島敦記念特別朗読会パンフレット (一九九二年一〇月、中島敦の会)
都市と恋情 「省察」第二号 (一九九〇年三月、西田書店)
小説からの逸脱 『吉田健一集成7』月報 (一九九三年九月、新潮社)
一つの精神の数々の側面 『昭和文学全集 第22巻』 (一九八八年七月、小学館)
真の詩人はいつでも早すぎる 『ジャック・ケルアック詩集』 (一九九一年一二月、思潮社)
ただ美しい逸脱の物語 『抱擁』 (一九八七年一月、集英社文庫)
宇宙のゆらぎを受信するアンテナ 『砂丘が動くように』 (一九九〇年三月、中公文庫)
境界の上に立つ人たち 『夢を走る』 (一九八七年四月、中公文庫)
『V.』の航時性について 「ユリイカ」一九八九年二月号(青土社)
Kマートのリアリズム? 『レイモンド・カーヴァー全集2』 月報(一九九〇年八月、中央公論社)
倫理と人工言語 「文学界」一九九二年二月号(文藝春秋)
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