[NO.461] イタリア歩けば...

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イタリア歩けば...
林丈二
廣済堂出版
平成4年5月15日 初版
平成9年5月30日 4刷

 ご夫婦でイタリア旅行をなさったときの紀行文。林丈二氏らしい膨大なメモの記録にあふれています。これが楽しめる読者にとっては、たまらない内容。靴底 にたまった小石のコレクションが有名ですが、それに匹敵するものとして今回は万歩計の記録が克明に記されています。
 意外だったのは、起床時刻の早さ。さらに睡眠時間をたっぷりとっていること。8時間以上はあたりまえ。これが、好奇心の塊のような林丈二が精力的に活動できる源だったのかな、と妙に気になりました。

p122
 日本ではうまいコーヒーを出すのに、水に鉋(かんな)をかけ、やすりで磨き、ビロードで撫でくりまわすようにこだわったりするけど、ヴェネツィアの場合、水の頭をカナヅチで殴って気絶させてから無理矢理コーヒーにしてしまうというような気がする。
 コーヒーはともかく、ヴェネツィアの水道水は僕の味覚ではローマよりまずく、マントヴァよりはマシといった結論を出している。
 何にしても僕は水の味にはそうこだわりはない。いつも水代わりに飲んでいる牛乳が手に入ればいいのである。水の味が好みであろうとなかろうと、コーヒーの味がどうであろうと、いつも宿に帰ってから牛乳を飲んで溜飲を下げていた。


p174
 床の幾何学模様のチマチマコチャコチャさも気に入った。多分これはイスラムのタイル装飾の影響だろう。イスラムからの影響といえば、かつて中近東世界からは、シルクロードを伝って日本にも様々なものが取り入れられてきていることを思い出す。
 日本の神社にある狛犬(こまいぬ)のルーツはアッシリアあたりの神殿を守っていた獅子かもしれないとか、イスラム寺院のネギボウズのような屋根が橋などについている擬宝珠(ぎぼし)の形に似ているとか、イスラエルあたりでダビデの星と呼ばれる魔除けのマークが、日本では安倍晴明判(あべのせいめいばん)と呼ばれてやはり同じ魔除けのマークとして平安時代あたりから使われているとか、何だか身体のどこかがウズウズするようなものを感じてしまう。
 そういえば、サンマルコの床模様も小田原の箱根細工の模様
に似ている気もしてきて、いっそう頭がゴチャゴチャしてくる。