[NO.454] 文章工房/表現の基本と実践/ちくま新書125

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文章工房/表現の基本と実践/ちくま新書125
中村明
筑摩書房
1997年9月20日 第1刷発行

目次
序章 文章のセンスと技術
文章修行/類書の洪水/文章作法書の種類と効能/この本の位置づけ/文章感覚を支える技術
1 原稿用紙の作法と工夫
 心のぜいたく/原稿用紙の種類/筆記具の使い分け/題の書き方/筆者名の書き方/マスの使い方
2 句読点の基本と応用
 句点の用法/句読点の選択/読点の基本ルール/あいまいさを減らす方法/卓立と分節の読点/注意を喚起する読点/引用と読点/間を指示する読点
3 各種の記号の活用
 記号の効能/会話や思考内容の引用/会話中の会話/引用/取り立てる/名づけ/注記/パーレンの諸用法/ダッシュの用法/リーダーの用法/その他の記号
4 漢字の書き分け
 語種と文字の使い分け/交ぜ書き/代用漢字/意味用法による漢字の書き分け/複雑な絡み合い
5 語感のひろがり
 意味と語感/性別/表現者のさまざまな影/対象の照り返し/ことばの体臭
6 語順とニュアンス
 情報配列と手順前後/力点と潜在情報/語順の自由度とニュアンス
7 あいまいさの追跡
 あいまいさの諸相/ことばのゆとり/修飾のすきま/修飾の係り先
8 視点の操作と遠近法
 客観的な視点/微妙な視点/視点の位置/動く視点
9 描写のいろいろ
 自然を描く/人を描く/心を描く
10 レトリックの楽しみ
 レトリックの目的と効果/展開のレトリック/伝達のレトリック
あとがき

p12
この本の位置づけ
 そういう枠組みにあてはめてみると、自分はいったいどんな仕事をしてきたのだろう。私のこの方面の著書は、大きく次の三つの分野に分かれる。
 第一の系統は(表現)関連の書物である。『比喩表現の理論と分類』(国立国語研究所)と『日本語レトリックの体系』(岩波書店)とは表現技法と伝達効果 に関して論じた研究書である。『比喩表現辞典』(角川書店)『感情表現辞典』『感覚表現辞典』(現行版はともに東京堂出版)『人物表現辞典』(筑摩書房)  などは、作家の文章から採集した実例をそれぞれ書名に明記した観点で整理したものであり、生きた表現集成と言えよう。
 第二の系統は(文体)関連の書物である。『日本語の文体』(岩波書店) は前半が理論編、後半が実践編で、文体論の構想と展開を論じた学術書である。 『作家の文体』(ちくま学芸文庫) はインタビューによって引き出した一流作家たちの創作現場の肉声を分析し、その表現意識を探った実践の書だ。『名 文』(ちくま学芸文庫) はその名のとおり名文例を掲げ、その言語的な在り方を解析した文章鑑賞の書である。
 そして、第三の系統が、この本の属する(文章)関連の書物である。そのうちちょっと毛色の変わったのが『センスある日本語表現のために』(中公新書) で、日本語における語感のひろがりを展望した初めての試みだ。口頭表現・文章表現を通じて各自が言語感覚を養うのに役立つだろう。文章作法書を意識して書 いた最初の一冊が 『文章をみがく』(NHKブックス)である。これは自分の頭のなかに描いた「ひとつの文章読本」というものの姿を、ほぼイメージどおり に刻んだ本だ。『悪文』(ちくま新書)はその書名にあるとおり、悪文の要素を列挙し、その矯正法を考えた、いわば悪文小辞典であり、裏返しの文章作法とも 言える構成になっている。『文章力をつける』(日本経済新聞社)は、基本的な要素をひととおりカバーしたオーソドックスな入門書を目ざして書いた、初級か ら始まる文章作法のテキストである。
 さて、『文章工房』と題するこの本はどうか。既刊の著書との関係で言えば、その第三の系統の分野から重要なテーマを選んで焦点をしぼりこみ、
文章を書く現場で具体的に役立つように、技術面を掘り下げた実学の書である。職人が生活に役立つ民芸品をつくりだすように、日常の生き生きした文章を制作するアトリエというイメージで「工房」と名づけてみた。