[NO.419] はじめての言語学/講談社現代新書1701

hazimetenogengogaku.jpg

はじめての言語学/講談社現代新書1701
黒田龍之介
講談社
2004年1月20日第1刷発行

 語り口が読みやすい本でした。言語学という学問を概説してくれています。これから言語学を学ぶという高校生にも読んで欲しいと、導入部に記述されていました。納得。極力、専門用語や人名を書かずに済ませているとも。
 自分の専門領域をわかりやすく説明するのは、難しい。まず、自分自身が分かっていなくてはならないだけでなく、いかに要領よく相手に伝えられるかがポイ ントになります。この著者は、順序立てから途中に挿入する実例やエピソードまでも、飽きさせずに説いていました。大学の講義で鍛えられた成果なのでしょう か。きちんと全体の構成を立て、肉付けし、なおかつ、語り口が読者を引きつける工夫もなされていることを感じさせます。
 ソシュールの一般言語学講義が、講義録を弟子たちがまとめたものであるというエピソードの紹介文中に、自分の講義ノートはだれもまとめてくれそうにないので、自分でまとめる、という記述がありました。
 言語学全体を大きく説明されていて、ポイントが頭に入りやすく読めました。
 この方は文章を書くということについて、かなりまとまって考えたことがあるのではないでしょうか。もともと言語を言語で説明するという仕事なだけに、わかる気はしますが。それでも理解不能な言語学に関する本が多いだけに、気になりました。

 特に興味深かったのは、以下のところ。
p46
ムーナン、G(福井芳男、伊藤晃、丸山圭三郎・訳)『言語学とは何か』大修館書店1970
 これは序論がとくに面白いので、ここだけでも読む価値がある。たった二十ページの中で、言語学に入門するときに、読むと混乱を起こすような哲学者や思想 家の本は読まないほうがいいとして 「ブラックリスト」を挙げている。それがすごい。レヴィーストロース、メルローボンティ、バルト、ルフエーヴル、フー コー、ラカンと、一部の人が神様のように崇(あが)めている大物たちについて、「彼らは言語学から諸概念を借用するが、その用法には議論の余地が大いにあ り、間違っていることもよくある」と、とにかく手厳しい。断っておくがわたしがいっているのではなくて、ムーナンがいっているのである。彼らの哲学につい ては知らないが、言語学をなんにでも当てはめようというのは、わたしも間違いだと思う。
 口の悪い人の著作はだいたい面白い。でも、こういう人が絶賛するほうはあまり的を射ていなかったりする。


 名前こそ挙げていませんが、大野晋氏の日本語起源説についての批判が出てきました。学者たちにとってはトンでも本だったとか。無知なマスコミとの関係も記述されています。