オヨヨ島の冒険/角川文庫 小林信彦 角川書店 昭和49年9月30日 初版発行 昭和58年8月30日 19版発行 |
解 説(石川喬司)
本書は、〈オヨヨ大統領シリーズ)の第一作である。
このシリーズは、初年秋現在、七作書かれており、順次、本文庫に収録される予定になっている。そのリストをご紹介すると ――
A『オヨヨ島の冒険』(書きおろし。70年3月・朝日ソノラマ。のち72年5月にBとの合本版が晶文社から)
B『怪人オヨヨ大統領』(書きおろし。70年12月・朝日ソノラマ。のち晶文社)
C『オヨヨ城の秘密』(「中二時代」連載。74年3月・晶文社)
D『大統領の密使』(「ミステリ・マガジソ」連載。71年7月・早川書房)
E『大統領の晩餐』(「ミステリ・マガジソ」連載。72年3月・早川書房)
F『合言葉はオヨヨ』(「週刊朝日」連載。73年2月・朝日新聞社)
G『秘密指令オヨヨ』(「週刊朝日」連載。73年6月・朝日新聞社)
以上のうち、A、B、C、の三作は、いたずら好きの少女が物語の語り手をつとめる三部作の構成になっていて、ジュニア向きであり、D以下の四作は、最初から大人を対象に書かれたものである。
このシリーズが生まれたきっかけについて、作者はこう書いている。
「何年まえであったか、正確なことは忘れてしまったが、いま小学校四年である長女が、学校に上る以前であったと思う。弟がたずねてきたある夜、子供に読 ませる手頃な本がないという話が出た。(中略)(ジェームズ・ポンド物みたいなので、子供が主人公ならいいんだがなあ)と弟は言った」(「ワンダーラン ド」73年8月号)
ここに出てくる「弟」とは、本書に楽しいイラストを添えている小林泰彦氏のことである。この泰彦氏の発言から、構想がしだいに具体化していったらしい。
朝日ソノラマ版『オヨヨ島の冒険』には、つぎのような「作者のことば」がついている。
「おもしろいお話をききたい、というのは、だれもが持っている願いではないでしょうか。有名なイギリスの童話『不思議の国のアリス』も、アリスという少 女にせがまれて、作者のルイス・キャロルがつぎつぎにつくり出した物語を、あとで、一冊の本にしたのだそうです。
ところで、わたしは、ひとにおもしろい話をきかせるのが大好きです。おもしろい話といっても、いろいろあるのですけれど、おかしい話(ユーモア小説) と、フシギな、ドキドキする話(冒険小説)が、わたしは、とても好きなのです。というのは、わたしが子供のころ、この二種類のお話を、いちばん好んだから です。いまでも本屋さんにある江戸川乱歩の冒険小説、それから、これはあまり見られなくなったけど、佐々木邦という作家のユーモア小説は、よかったなあ。
そういうわけで、わたしは、はじめて、みなさんにするお話を(ユーモア冒険小説)にしました。おかしくて、ドキドキするという、これが、いちばん良いんじゃないかしら。
まあ、こんな前口上はどうでもいいことです。みなさんが、おとなになったある日、ふと、(そういえば、むかし、こんな小説があったっけ)と思い出すときがあれば、作者として、これ以上の喜びはないのです」
小林信彦氏の著書の中、特に、この種の文庫は絶版となってしまっているので購入。初出が「朝日ソノラマ」や「中二時代」などというのを見ると、何ともいえません。筒井康隆氏の「狙われた学園」など、一連の「その手」の小説を思い出してしまいました。
物語の出だしから、大阪万博会場です。それも一般公開と同時期のこと。話題の中心であった万博会場へ主人公たちを侵入させ、パビリオンなどの様子をまる でTV放送のように紹介してくれている展開には、サービス精神旺盛な著者ならではでしょう。忘れていましたが、この主人公のお父さんはテレビ脚本家という 設定でした。小林信彦氏の分身? なんともはや。
いっそのこと、唐獅子牡丹シリーズも読み直してみようかと思いました。
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