[NO.290] ぼくがカンガルーに出会ったころ

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ぼくがカンガルーに出会ったころ
朝倉久志
国書刊行会
2006年6月30日初版第1刷発行

 いい本です。伊藤典夫氏と並んで著者が訳したSFは信頼がおけます。そんな朝倉氏が初めて出版したという、自分の本だそうです。
 フィリップ・K・ディックとカート・ヴォネガットについての章立てもあります。その他、訳書のあとがきや解説等が多くを占めています。
 「もとSF映画ファンの願い」と題する文章の中で、なぜ今のSF映画が詰まらないのか書かれていました。結論は、CG等の映画技術が進歩したのに比べて 脚本が変わっていないことが原因だとのこと。映画制作費の中でも、脚本料が少なすぎるとも。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「未来世紀ブラジル」で すら50年代のストーリーであって、その他のSF映画では「一九四〇年当時の活字SF並だ」といいます。
 映像技術が伸びたのは歓迎すべき点であって、ブライアン・オールディス「地球の長い午後」ですら映像化できるのではないか、と期待しているのだとも。確 かに、朝倉氏が述べているように、「地球から月まで張り渡されている蜘蛛の巣」なんていう映像は見たい気がします。さらに、「ユービック」を映画化して欲 しいとも。その題名を目にしたときに、懐かしく思いました。早川文庫で出版された当時、あまりの面白さに、何冊も買って友人たちに無理矢理読ませたことが ありました。顰蹙ものでしたが。

 目次に目を通すと巻末に「訳者あとがき」としてあり、不思議に思って読むと、朝倉氏はこの方が落ち着くからだとか。詳細な「朝倉久志・翻訳リスト」が付いています。