[NO.284] 愛書狂

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愛書狂
鹿島茂
角川春樹事務所
1998年3月8日第1刷発行

 どうだ、これでもか、とばかりに見せつけてくれます。銀行で何度も借金を重ね、パリの古書店へ注文したという鹿島氏ならではの豪華本の数々。荒俣宏氏のようなベストセラー(による収入)があったわけでもなく、出版社の会議室で寝泊まりしていたわけでもなく、むしろ女子大の教授であり、ご家族もおられ......

まえがき
『子供より古書が大事と思いたい』(青土社)を上梓したのが二年前の一九九六年三月。辛い、読者の好評に迎えられ、私の本にしては珍しく版を重ねたばかりか、講談社エッセイ賞までいただいたが、読者からは、私が集めている十九世紀のロマンチック挿絵本というのが、具体的にどんなものか知りたいというお便りが多く寄せられた。
 たしかに、『子供より古書が大事と思いたい』は、フランスの古書収集にまつわるエピソードや、装丁や紙や複製技法などをめぐるエッセイが中心で、肝心のロマンチック挿絵本そのものについての記述は少ない。それは、予備知識のまったくない読者にも、古書収集家の業の深さを知っていただくには、このほうが得 策と判断したためであるが、しかし、それは、たとえてみれば、料理そのものにはなにも触れずに、グルメ談義にふけるようなもので、隔靴掻痒の感を免れなかった。
 そこで、今回、私の書庫の中から、ロマンチック挿絵本を代表する二十五冊を選び出し、その内容、書誌的来歴、イラストレーターの経歴などを、入手時のエピソードをまじえつつ、できる限り具体的に語ることにした。前著ではスペースと価格の関係で、図版を多く収録することができなかったが、本書では、書き下ろしということもあって、初めから挿絵紹介のためのページをたっぷりと取って、視覚的にも楽しめるようにすることができた。
 なお、二十五冊の選択に当たっては、ロマンチック挿絵本の概要を知っていただくための戦略的・教育的な意図が働いてはいるものの、選択の基準は、あくまで、マイ・コレクション王国の王様たる私の「好き嫌い」にあり、有名な作品でも好きになれないものは平気で排除してある。読者はゆめゆめ客観的な研究書を期待されないように。そうしたものは、本を「所有」するという情熱とは無縁の書誌学研究者が図書館に適いつめて書き上げていただけばいいと思っている。
 それでも、集中的に作品を拾ったグランヴイルを除いては、ロマンチック挿絵本のイラストレーターを幅広く紹介するために、それぞれの個性がよく発揮されている代表作を網羅するようには心掛けたつもりである。本邦初登場のイラストレーターも何人かいるので、この方面でも、多少のお役にたてるのではないかと期待している。
 編集部からの要請もあって、それぞれの本に価格帯をそえてみたが、これは、フランスでの店頭価格やカタログの価格を参考にして、私が独自に算定したものである。古書は状態によって大きな幅があり、絶対的な基準というものは存在しないから、その点はお含みおきいただきたい。数字はあくまでフランスの古書店 のもので、日本の洋古書店で購入する場合は、この価格帯の倍までであれば良心的と考えてよい。価格設定は多少安目になっているかもしれない。
 それでは、煩わしい前置きはこれぐらいにしておいて、お待ちかねの「ロマンチック挿絵本の王国」にご案内することにしようか。