ボン書店の幻/モダニズム出版社の光と影/叢書L'ESPRIT NOUVEAU 9 内堀弘 白地社 1992年9月15日 初版第1刷発行 |
不思議な本。手元に置きたくなりますが、古書価はなかなか上がっています。絶版。おもしろいです。
p19
サティを聞きながら
一九二〇~三〇年代の代表的な詩書の出版社としては第一書房が知られている。この出版社の詩集に共通するのは、ひとつにはその時代のスタンダードな詩人 を選んでいることであり、もうひとつはその装丁の豪華さであった。堀口大学の『月下の一群』や『萩原朔太郎詩集』という名前をあげてもいい。これらは革装 丁に金装飾、かつてこの国では見たこともないような豪華で美しい詩集に仕上がっていた。
ボン書店はそのすべてにおいて逆であった。もちろん資力において圧倒的な違いもあった。こちらは、まだ若くそう名前もしられていない新鋭たちの詩集を、 シンプルな形で送り出していた。豪華という言葉からは遠いかもしれない。だが、瀟洒という点では第一書房の詩集を遙かに凌いでいた。
ボン書店が出した竹中郁の『一匙の雲』という詩集を見てみよう。これは掌にのるほどの小さな詩集であった。第一書房の豪華な詩集に比べれば、それこそ付 録のような代物である。こんなに小さな詩集を他に見つけることはできないはずだ。これがボン書店の処女出版であった。一九三二(昭和七)年、夏の出来事で ある。この小さな詩集の表紙には当時バウ・ハウスに参加していたモホリ・ナギのモノクロ写真が使われていた。今手にしても「大胆尖端」な作りである。
■鳥羽茂氏、不思議な人生。
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