はじめての橋本治論 千木良悠子 河出書房新社 2024年03月20日 初版印刷 2024年03月30日 初版発行 325頁 |
小説、古典新訳、評論など、ジャンルを横断して活躍した知の巨人・橋本治。桃尻娘、言文一致体、歴史、美術、浄瑠璃など、日本と日本人と日本語を問いつづけた作家・思想家の初の本格評論。
本書の出版社河出書房新社のサイトから「この本の内容」を引用しました。リンク、こちら
最近の出版社サイトでの要約はどれも感心するばかりの賢い要約文ばかりですが、これはいただけません。「知の巨人」を使った段階でもう無理。立花隆だの養老孟司のことをそう呼ぶのを見たとき、唖然としました。お二人とも嫌がらなかったのでしょうか。少なくとも橋本治という人が受け入れたとは到底思えないので、おろおろしてしまいました。
絡んだついでにもうひとつ。末尾の「初の本格評論」というのは、こっちの方がインパクトあったかと。
『はじめての橋本治論』は、日本(文学)史上初めて刊行された一冊丸ごと橋本治を論じる単著であり、
chisato_mrt さんによる no+e への投稿から引用です。リンク、こちら
「単著」というところに驚きました。(「初の本格評論」でもいいんですが。)
あんなにもたくさん書いていた橋本治さんです。
それなのに、でもやっぱりなあです。
特徴として、扱うジャンルを小説に限定しています。
小説では、『サイモン&ガーファンクルズ・グレイテスト・ヒッツ+1』あたりで、あれっ? ついて行けそうになくなり、その後脱落。それでも「桃尻娘シリーズ」だけは最後まで付き合いました。
千木良さんから(著者が長年培ってきた)橋本治さんへの思いが強く伝わってきたのが「桃尻娘シリーズ」。第2章が「桃尻娘シリーズ」を扱っているのですが、ほかの章でもちょこちょこ「桃尻娘シリーズ」が顔を出します。橋本治さんにとっても桃尻娘は特別な存在だったのだとか。
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千木良さんの脳内に構築された「OSAMUデータベース」を稼働させるといいますが、いやはやどう処理していらっしゃるのやら。膨大なデータ量の処理をこなしています。
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本書では巻末の【参考文献一覧】のうち5頁を「橋本治作品」に割いています。
かつて、熱烈な橋本治ファンサイトがありました。内容も充実していて作品データも整理されていたような。それを見たとき、何か調べたいことがあれば、このページが解決してくれそうだなと思ったものです。それが閉鎖され、消えてしまったのですからびっくりです。
今やネット上からはウィキペディアでしかアプローチできないのでしょうか。
追悼雑誌『KAWADEムック 文藝別冊 追悼総特集 橋本治 - 橋本治とはなんだったのか?』、『ユリイカ2019年5月臨時増刊号 総特集=橋本治』あたりが(調べたいときには)手がかり?
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命名でおかしかったのが「カシマシマンジ術」(P.50/P.72)
「カシマシ」とは久生十蘭の『「姦(かしまし)』で、「マンジ」は谷崎潤一郎のあの『「卍(まんじ)』のこと。ほかにもジャン・コクトーの『声』、レーモン・クノーの『地下鉄のザジ』を挙げ、「読んでいて向こうから声が聞こえてくるようなものが好き」だという橋本治は、これらを「桃尻娘」を書く際に影響を受けたと語る。(『リア家』の一時代」「ユリイカ」二〇一〇年六月号、宮沢章夫との対談)P.50
目次
第1章 橋本治と日本語の言文一致体 7
1 規格外の小説家 2 書物は人の孤独を救う 3 みんなでやったぜ言文一致 4 時計の針を進めるために
第2章 小説を語る声は誰のものなのか?―「桃尻娘」シリーズ全6部 31
1「桃尻娘」とは何だったのか 2 世の中は死んでいる! 3 声の文学 4 楽園に帰ろう 5 三人称の作者(かみさま)とは誰か 6 橋の彼方に
第3章 関係ない他人の幸せを描こう―『蝶のゆくえ』その他の短編集 101
1「普通の日本人」とは誰のことなのか 2「ふらんだーすの犬」の残酷 3 父の不在 4 愛の幻想に囚われて 5 鎮魂の小説 6 青い夜風の吹く大地
第4章 私たちの百年の戦記―『草薙の剣』 161
1 ヒーローになれない日本人 2『草薙の剣』第二章までのあらすじ 3 第三章以降のあらすじ 4「三つの謎」の答え 5 草薙の剣を継承する 6 岸辺の目覚め
第5章 四つの家の物語―『巡礼』『橋』『リア家の人々』 241
1『巡礼』 2『橋』 3『リア家の人々』
第6章 その他の小説・戯曲一挙解説 275
1 デビュー前 2 初期作品 3 中間作品 4 後期作品
あとがき 317
初出一覧
第1章「橋本治と日本語の言文一致体」......「文學界」2022年1月号
第2章「小説を語る声は誰のものなのか?」......「文學界」2022年6月号
第3章「関係ない他人の幸せを描こう」......「文學界」2023年1月号(「橋本治と戦争」―『蝶のゆくえ』その他の短編集について」改題)
第4章「私たちの百年の戦記」......「文學界」2024年1月号・2月号(「橋本治『草薙の剣』論」改題)
第5章「四つの家の物語」書き下ろし
第6章 その他の小説・戯曲 一挙解説」書き下ろし
あとがき......書き下ろし
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