バルザックを読む 1 対話篇 鹿島茂・山田登代子 編 藤原書店 2002年05月30日 初版第1刷発行 325頁 |
対談を読むのが好きです。
〈バルザック生誕200年記念出版〉として、藤原書店から1999年に『バルザック「人間喜劇」セレクション(全13巻・別巻2)』が販売されました。先ほど〈日本の古本屋〉サイトで検索すると揃いが42000円です。
P.326 日本に「バルザック党」の建設を! 鹿島茂 書き下ろし |
P.2
日本に「バルザック党」の建設を! 鹿島茂
なにはともあれ読ましてしまえ!
これが、わたしたち「バルザック『人間喜劇』セレクション」の責任編集者が、巻末の対談相手となっていただく方々を選ぶにあたって密かに目論んだことです。
わたしたちは、日本においてバルザックがまったくといっていいほど読まれていないことを承知していましたし、また文筆業界でも、バルザックを一度も読んだことがないという人が少なくないという現実もよく知っていました。
しかし、その一方で、どんな人でもバルザックを手にとったら最後、かならずやバルザック党になるとも確信していました。
ですから、どんな方々に各巻の対談相手になっていただくべきかという問題を討議したとき、実際にバルザックのこれこれの作品を読んだことがあるかないかという要素は考慮の埒外に置き、むしろ、この方がこの作品を読まれたら、どう反応されるだろうという興味を優先させるようにしました。そして、最終的な目標として、その方をバルザックの作品によって「オルグ」して、強固なる日本バルザック党を建設することを視野にいれて、選定作業を進めたのです。
結果からいえば、わたしたちの目論見は大成功だったと思います。たいていの方が、その作品を読むのは初めてだったにもかかわらず、反応はとてもヴィヴィッドで、対談も活発なものになったという気がします。(以下略)
たとえば町田康さんは、こう言います。
P149
じつはバルザックは全然読んだことがなくて、最初の印象としては、けっこうめんどくさいんだろうなと思っていたんです。分量もそんなたいしたもんじゃないだろうと。そう思っていたら、非常にぶ厚いゲラが送られてきて、一体これはどうしようと一週間ぐらい放置していたんです。それでめんどくさいから、一緒に送られてきたあらすじだけを読んで終わらせてしまおうと思ったんですが、読んでもわからなくて......。それで、読み出したんですが、そうしたら一瞬で......。
(途中略)
本当はほかにやらなきゃいけないこともあったんですけれど、ずっとこればっかり読んでしまって、一日で読み終わりました。時間がなかったのに、おもしろくて止められないから、しょうがないんで風呂でも読んで......。でも風呂で読むとゲラがバラバラになっちゃうから、一回出て、置いて、また読めるだけの分量を持ってまた入って、と(笑)。(以下略)
まさしく、鹿島茂さんの目論見どおりです。
山口昌男さんの場合は。
P.205
山田 先生とは以前「読書する女」をめぐって対談させていただきましたが、今日はそうじゃなくて「読書する男」の話ですね。
山口 「むりやり読書させる」ことですよ。この短い時間に、めちゃくちゃ忙しい時にこんな大作を読むというのは、これは人道的行いだろうかと......(笑)。
山田 非人道的ね......、そうかもしれません、超人的ですよね。
山口 老人虐待だよ。だいたい半年ぐらい前に言ってもらいたいね、こういう企画は。
山田 でも先生、本当によく読んでくださいました。『幻滅』は、バルザックのなかでも最長、読むのに体力がいる作品です。でも『人間喜劇』最高の傑作ですし、訳もすばらしい。で、さっそくですが、先生、どこがいちばん面白かったでしょうか。
山口 仕掛けておいて先に聞くのはどうかと思いますね......。(以下略)
こちらも、まんまと目論見どおりです。まるで掛け合い漫才みたい。
抜粋つづきなので、終わりも抜粋からで。
P.324
バルザックは世の終わりまで 山田登世子
小説をめぐる対談がこれほどまでに小説的だとは思ってもみなかった。(以下略)
本書についてのわたしの感想は、ここに言い尽くされていました。
小説をめぐる対談がこれほどまでに小説的だとは思ってもみなかった。
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