異種間通信/ハヤカワ文庫SF ジェニファー・フェナー・ウェルズ 著 幹遙子 訳 早川書房 2016年01月10日 印刷 2016年01月15日 発行 476頁 |
久々のハヤカワ文庫SF。476頁と読みでがありました。作者については、まったく知りません。うらすじを読んでもぴんとこないので、ご多分に漏れずあとがきに頼りました。
作者の処女作であり、2014年に出版されたとあります。うっかり、うらすじにあった
一九六四年、火星探査機マリナー4号は小惑星帯で未確認宇宙船を発見する。以来数十年、NASAはその存在を秘匿する一方、秘かに観察を続けていた。
というところから早とちりをしてしまいました。マリナー4号? 1964年? ずいぶん昔に書かれた古い作品なのか? (なにしろこの作者名は、まったく知りませんから、てっきりこれまで未訳だったものが新たに翻訳されたものとばかり誤解したのでした。)
で、一瞬つまらなそうかと思いきや、まだ原書が出版されてから10年そこそこ。あらためにあとがきを読み直すと、おもしろそうです。
P476
本書は異星人接近遭遇ものというレトロな題材を、これまでにないアプローチで料理した作品である。(途中略)
訳者が若いころ、A・E・ヴァン・ヴォークトの『宇宙船ビーグル号の冒険』で宇宙の深遠さを感じ取り、C・L・ムーアの『大宇宙の魔女』の主人公ノースウェスト・スミスに夢中になったように、本書を読んでスペースオペラという世界に目覚める若い読者がたくさんいることと思う。
懐かしい「スペースオペラ」というキーワードにやられてしまいました。A・E・ヴァン・ヴォークトは『非(ナル)Aの世界』という題名に魅了されました。(中学1年の春のこと。)実際に読んだのはE・E・スミスでしたが。
あとがきの前半はあらすじが出ていますが、ネタバレを避けるためなのか、どうもいまひとつ手掛かりにかけます。で、作者についての、こんな紹介が目にとまりました。
P.475
ジェニファーはSF作家として、レイ・ブラッドベリ以外の(この手前に、「SF小説に目覚めたきっかけはレイ・ブラッドベリとあります)リスペクトする作家にダグラス・アダムズ(『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズの作者)、アン・アギアレイ(『グリムスペース』の作者)、ダイアナ・ガバルドン(大人気TVドラマ《アウトランダー》の原作となる『時の旅人クレア』シリーズの作者)を挙げている。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』は映画を見たことがあります。残りの作者・作品は知りません。ネット検索すると、ともに女性作者で作品はロマンスなんだそうです。(今思うと、本作の後半に出現するライトノベルの風合いが理解できます。
訳者幹遙子さんは高知出身で、同郷の大森望さんとは高校時代にSFファン活動をしていたとウィキにありました。お二人は同学年ではないでしょうか。
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「異星人接近遭遇もの」というので、一昨年読んだアンディ・ウイアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を連想してしまいました2作を比べると、こちらの方がハードSFです。戦闘場面もそれなりだし、異星人から与えられた戦闘スーツなんて、惹かれます。
異星人の世界を破綻せず、矛盾することなく構築したのでしょう。本作には2年かかったとあとがきにありました。異星人の描写はおもしろかったところです。そもそも形状がおかしい。
途中からハーレクインもののようなロマンスが展開したり、えっ、そうくるの? というのはありましたが、読みにくいところがなかったとはいえません。異世界の描写がそれなりに、なされていて、ハリウッドで映画化されることを前提にしているのかと思うところも。
それで、印象深かったのが、視覚の描写についてが多かったこと。異星人の宇宙船内部(部屋)の描写の中で、抽象画家《ロスコ》の名前がでてきたのには参りました。
P.420
それは顔料を大きくべたべたと塗りつけたもので、分厚いあまりに顔料のなかに山頂のような盛り上がりや稜線のような畝(うね)がいくつもできていた。壁の上三分の一ではアメジスト色から紺碧(こんぺき)色まdの色彩が混じりあい、鮮やかな対照色のすじがたくさん走っていて、近くに寄って見なければ見分けがつかないほどになっていた。
絵にはとぎれ目があり、そこでは壁のくすんだ緑色が顔を出し、ロスコ(ロシア生まれの米国の抽象画家)の絵のようだ。
珍しい名前が出て来たので驚きました。国内では DIC川村記念美術館 に ロスコ・ルーム があって、7枚の作品があるのだとか。そういえば、この DIC川村記念美術館 は来年1月で休館。その後の存続が危ないというネットニュースを読んだばかりです。企業が運営する美術館は経営が厳しいのだとか。
DIC川村記念美術館 はとてもよかった記憶があります。2008年8月19日に行ったことがありますが、ゆっくり見られずに残念でした。で、自分の覚え書きを見てもこの ロスコ・ルーム について触れていません。美術館サイトには ロスコ・ルーム は2008年に増築したとあります。そういえば、訪問したときにシートで覆った建物工事をやっていた記憶がありました。それかな。
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「治療用浴槽(サナラプレシウム)」の中で活躍する「糸状繊維」の様子は、まるでジブリ映画版『風の谷のナウシカ』に出てきたオウムから延びた触手のイメージを敷衍したみたい。元ネタはどれだろう?
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