[NO.1624] 君の物語が君らしく/自分をつくるライティング入門/岩波ジュニアスタートブックス

kimino.jpg

君の物語が君らしく/自分をつくるライティング入門/岩波ジュニアスタートブックス
澤田英輔
岩波書店
120頁

中学生対象の本ですが、このキャッチーなフレーズに目がとまりました。

書くことはあなたの人生を
豊かにしてくれます。
他人と比べず、
他人の評価に縛られず、
自分のために
書いてみませんか?
書くことが
きっと楽しくなります。
(カバー裏から)

この本は、他人と比べたり、他人の評価に縛られたりするのではなく、自分のために、自分らしく文章を書くことを提案します。
(「この本の内容」から)

表紙のイラストを見ても、いかにも子どもが対象と思われます。いい大人(おじ(い)さん)が手にするには恥ずかしいかも。それでも、先ほどの言葉には魅力がありました。
他人と比べず、他人の評価に縛られず、自分のために書いてみませんか?

いいですねえ。年寄りが楽しみのために書く。

著者澤田英輔さんはいいます。(P11~)

大人が書く時には、たいていは実用的な目的があり、想定する読者がいます。

それに対して、幼い子どもが「白い画用紙に自由に絵を描くように」文章を書く。「技術的にはつたなくとも、書くこと自体が楽しくて仕方ない子たち」は「充実した喜びが溢れています。

忘れていた喜びが思い起こされるようです。

もうひとつ、興味深かったのが「物語」についてでした。

 ◆ ◆ ◆

この手があったか!

P69
 文章を書いていると、途中で飽きることもあれば、思い通りにいかなくてだんだんしんどくなってしまうこともあります。そういう時は、「もうここで完成」と決めてしまっていい。もしあなたが最後まで書き切らないと罪悪感を覚えるのであれば、最後に「づづく」と書きましょう。「つづく」は、そこでいったんピリオドを打てる魔法の言葉。(以下略)

 ◆ ◆ ◆

ChatGPT は中学生の作文で使う

P90
 なお、実在する他者に文章を見せる勇気がない時には、近年話題になっているChatGPTなどの文章生成AIに「助言」してもらうのも一つの方法です。文章生成AIは、インターネット上に蓄積された膨大な言語データをもとにして、メールなどの実用文はもちろん、エッセイや物語などの創作に関しても、アイディア出しの手伝いをしてくれたり、下書きの文章にコメントしてくれたりします。日進月歩の分野なのでこの本では詳しく扱いませんが、十三歳以上であれば一定の条件のもと、使用できるおのがあるので、興味を持った方はぜひ利用してみましょう。実はこの本も、人間の読み手と、ChatGPTの両方の助言をもらいながら書き上げました。

 ◆ ◆ ◆

P94
「書き手の権利10か条」
イギリスのナショナル・ライティング・プロジェクトUKという団体が唱えた、誰もが書き手として持っている権利のこと。
(ダニエル・ペナックの「読者の権利10ヵ条」を真似したものだと思います)。
「読者の権利10ヵ条」は、「読まない権利」からはじまる、10の権利のことです。くわしくは、ダニエル・ペナック『ペナック先生の愉快な読書法――読者の権利10ヵ条』を読んでください。

1 読まれない権利
2 書き直したり、消したりする権利
3 好きな場所で書く権利
4 信頼できる読み手を得る権利
5 書いている途中で道に迷う権利
6 放り出す権利
7 考える時間をとる権利
8 他の書き手から借りる権利
9 実験をしたりルールを破ったりする権利
10 パソコンを使ったり、絵を描いたり、紙とペンで書いたりする権利

 ◆ ◆ ◆

本書に登場・紹介された本

1 他者の視線から遠く離れて
――下手な文章の根っこには、たいてい不安がある。自分の楽しみのために書くなら、不安を覚えることはあまりない。
(スティーヴン・キング『書くことについて』170頁)

2 書くことは発見すること
――書き始めた時には思いもよらなかった思考にたどり着くための方法、それがライティングだ。
(ピーター・エルボウ『自分の「声」で書く技術』65頁9

3 発見のためのエクササイズ
――文章を書こうとしてはじめて、わたしたちの意識はめざめる。世界の中に(「の中に」に傍点)いたわたしが、世界を前に(「を前に」に傍点)して驚き、疑い、見るようになる。
(梅田卓夫・清水良典・服部左右一・松川由博『新作文宣言』177頁)

4 自分の「物語」を書こう
――自分が小説を書きつづけて最近思うのは、物語は本を開いた時に、その本の中だけにあるのではなく、日常生活の中、人生の中にいくらでもあるんじゃないかということです。
(小川洋子『物語の役割』22頁)

5 書くプロセスをつくる
――書くということは、書きながら学んでいくという特異なプロセスだ。自転車の乗り方を憶えたり、泳げるようになったり、ダンスやテニスをすることと同じように、書きながらその技術を学んでいく。
(シド・フィールド『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』267頁)

6 もう一度「他者」と向き合う
――作家はリレーの第一走者ではあるだろうが、アンカーではない。
(パトリック・ネス『怪物はささやく』6頁)

7 書き手の権利10か条
――書くことは、危険な賭けだ。保証は何もない。一か八かでやってみなくてはならない。私は喜んで賭ける。そうすることが大好きだから。
(アーシュラ・K・ル=グウィン『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて ル=グウィンのエッセイ』63頁)

終章 書くことの魅力
――自分の考えを深めていくためには、ひとりになる必要がある。ひとりの場所で、ひとりの時間に、自分ひとりと向き合って書くからこそ、ひとつの考えが深まっていく。
(古賀史健『さみしい夜にはペンを持て』138頁)

P116
うまくなりたい、と思ったら

(1)書き慣れる
 いしかわゆき『書く習慣』(2021年、クロスメディア・パブリッシング)
(2)物語を書く
 はやみねかおる『めんどくさがりなきみのための文章教室』(2020年、飛鳥新社)
(3)調べて書く
 最小葉月『調べてみよう、書いてみよう』(2014年、講談社)
(4)正しく書く
 阿部紘久『文章力の基本』(2009年、日本実業出版社)
(5)工夫して書く
 ながたみかこ『ふだん使いの文章レトリック』(2023年、笠間書院)

P16
『現代詩の10人 アンソロジー日原正彦』69頁

P34
東直子『短歌の不思議』
産業編集センター『穴うめ短歌でボキャブラリー・トレーニング』

P38
笹井宏之『ひとさらい』
俵万智『チョコレート革命』 
穂村弘『シンジケート』
山田航(やまだわたる)『さよならバグ・チルドレン』
天野慶(けい)『短歌のギブソン』

P44
千野帽子(ちのぼうし)『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)

P55
人間には偉大な欠陥がある――完璧なコピーを作れないってことだ。ヒーローを完璧にはコピーできないからこそ、そこに僕たちは自分の居場所を見つける。
(オースティン・クレオン『クリエイティブの授業』49頁)

P61
ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』

P71~72
 思いついたことは、何でも、メモすることにしています。
 そのためのノートを一冊、いつも、引き出しにしまっておいて、ときどき、とりだしては、書きこんだり、ながめたりします。(以下略)
(安房直子「一冊のノートのこと」『安房直子コレクション2 見知らぬ町ふしぎな村』336頁)

 ◆ ◆ ◆

(カバー裏から)
あなたは文章を書くのが得意ですか?
それとも苦手ですか?
書くことはあなたの人生を
豊かにしてくれます。
他人と比べず、
他人の評価に縛られず、
自分のために
書いてみませんか?
書くことが
きっと楽しくなります。

(表紙カバー裏(折り返し)から)
「ジュニスタ」って どんな本?
●中学生が自分の可能性を広げていくためのシリーズです
●「自分の考える力」を養う視点を提示します
●「正解のない問い」の答えを いっしょに探ります
●新しい世界を知り、興味や関心を広げることを応えんするシリーズです

この本の内容
■著者の澤田英輔さんは、長野県の、幼稚園から中学生まで一緒にすごす学校で働いています。
■この本は、他人と比べたり、他人の評価に縛られたりするのではなく、自分のために、自分らしく文章を書くことを提案します。
■文章を書くことがきっと楽しくなります。

目次
この本の内容
1 他者の視線から遠く離れて
 1 書くのが得意って、どういうこと?
 2 いつも、他者の視線にさらされている
 3 書くことを、自分の手に取り戻す
2 書くことは発見すること
 1 大人の書き方と子どもの書き方
 2 学校教育での書くこと
 3 書くことは発見すること
3 発見のためのエクササイズ
 1 手を使って考える......五行詩づくり
 2 五感でとらえる......食べものライティング
 3 読んでつくる......穴埋め短歌
4 自分の「物語」を書こう
 1 人は物語を生きている
 2 人が物語を求める理由
 3 物語を形にするヒント
5 書くプロセスを知る
 1 書くプロセスを知る
 2 ノートを言葉の実験室にする
6 もう一度「他者」と向き合う
 1 自分という他者と向き合う
 2 実在の他者と向き合う
7 書き手の権利10か条
終章 書くことの魅力
 「駅を通り過ぎて」
 1 未来の自分への手紙
 2 自分の物語をつくる

うまくなりたい、と思ったら
あとがき

 ◆ ◆ ◆

tutuku.jpg

【重箱の隅つつくの助】(蛇足までに)

P104~

ある生徒の文章を紹介しています。書き手は、中学一年生(当時)のナナミさん。彼女が仲間とプロジェクトとして企画した、あるイベントの帰り道の出来事を書いたエッセイです。

「駅を通り過ぎて、」

家への帰りに、疲れて電車から降りるはずの駅を寝過ごしてしまったことを中心に書いたものです。タイトル「駅を通り過ぎて、」は、そのことを表しています。

さて、つまらないことかもしれませんが、ここで気になってしまいました。折り返すときに、彼女は駅から外に出ていません。再度、運賃を支払うこともなく、折り返します。駅員に申し出てもいません。

P107
結局、駅は出ずにお利口に電車を待つことにした。

多くの乗客は、そうするでしょう。なかには、せっかく申し出たのに、駅員から面倒そうな態度で、「折り返すよう」指示されたとか。

鉄道会社では旅客営業規則に定められています。

間違えて乗り越してしまった旨を、係員(駅員)に認定された場合にのみ、無賃で引き返せます。したがって、黙って(勝手に)折り返し乗車をしたのなら、それはよくないみたいです。

駅員に告げず、黙って折り返しホームに移動しようとして、トラブったという話もあるようです。

いずれにしても、中学生が自分の可能性を広げていくための「ジュニスタ」シリーズ の一冊である本書で、こうした文例を使うのは難しかったかもしれません。

著者のブログを読んで、このエッセイが大きな意味をもつことを知っただけに、こんなことを書いて、気が引けますが。

もっと、言い訳めいたことをいえば、はじめて本書を立ち読みしたときに、このエッセイに魅力を感じたのでした。

岩波書店が出版しているのですから、かまわないのかな。