人生を楽しくするおとなの教養 名著いっき読み/日経ホームマガジン 日経おとなのOFF 編集 日経BP 2017年01月13日 発行 113頁 A4判 |
よくあるような、書店で自己啓発書の並びに見かけるものとは一線を画していました。ビジネス書とは立ち位置が違います。先入観はよくないですね。日経BP社から出版されているからといって、ビジネス書関連とは限らないということでしょう。
予想以上にお得で、儲けものです。
【目次】 一流講師陣がやさしく解説 「国語」出口汪さん 「理科・算数」佐藤勝彦さん 「社会」出口治明さん 「世界文学」沼野充義さん 「日本文学」菅野昭正さん 「政治経済」出口治明さん 「科学」鎌田浩毅さん 「哲学」小川仁志さん 「宗教」正木晃さん 「諸子百家」湯浅邦弘さん 「課外授業①」 「課外授業②」 066 「聖書入門」 100 「古事記入門」 これだけは押さえておきたい基礎知識 103 『古事記』と『日本書紀』との違いは? 神代から飛鳥時代までの壮大な歴史ロマン 「5分で読める『古事記』あらすじ」 「その二 上巻②」 「その三 中巻」 「その四 下巻」 |
後半の「聖書入門」と「古事記入門」のふたつだけでも、お得です。
「聖書入門」では、
「聖書を理解するための基本用語辞典」
「名画で旅する旧約聖書」
「イエスの波瀾万丈人生」
この3点が出色です。図版(略地図も)がなによりもいい。これだけでも十分に得した気分。
「古事記入門」では、表組み(年表の比較とか)は、いいのですが、「聖書入門」にあるような地図や図版が少ないのが残念。
◆ ◆
順序が逆になりますが、前半の「世界の名著」講座について。
ここで取り上げた紹介書籍の多さがよかった。それと図版(と表組み)。ひと目でわかる工夫は(手間がかかっても)、やっぱり大切ですね。
それぞれの項目で、どの本を選ぶのかが重要であるのと同じように、どの人に選んでもらうのか、という人選がポイントであることがわかりました。
たとえば、こちらが比較的理解しやすい日本文学のジャンルでいうと、選者は仏文が専門の菅野昭正さんです。文藝評論家で世田谷文学館名誉館長という肩書きもおありですから、ひとくちにはいえませんが、選んだ作品に、やっぱり偏りがないとはいえないでしょう。補足すると、個人的には嫌いじゃありません。(40年くらい前には好きでしたが、そのことをすっかり忘れていました。)
文芸誌だけでなく、作家研究の本でも、仏文関連で目にしていました。いくつか対談もあったはずです。
いずれにしても、日本文学を取り上げるなら、(この人選は)ちょっと違うのではないでしょうか。
面白かったのが、ジャンル別で選書されたなか、重複があったこと。ダーウィンの『種の起源』です。「政治経済」と「科学」の両方のジャンルから選ばれました。
比較してみます。
驚いたのが次のフレーズでした。
P37
「ざっくり超訳」
世の中、いつ何が
起きるか分からない。
チャンスを逃さないよう
準備を怠るな!
さすが、出口治明さんです。次のように説明します。
「強い者、賢い者が生き残る」と、ダーウィンの進化論を解釈している人も少なくないが、それは誤りだ。生物は遺伝子の突然変異などにより、ランダムにその体を変化させる。それがたまたまその時の環境に適していれば生き残る確率が高まり、結果としてその特徴が次代に引き継がれやすくなる、ということ。つまり、生き残る上で重要なのは強さや賢さではなく、「運と適応力」だ。
「ダーウィンの理屈を平たくいえば『世の中、何が起きるか分からない』。いつ、棚からぼた餅が落ちてくるか分からないのだから、僕らにできるのは常に対応できるように準備しておくことだけ。これはビジネスにも当てはまる、人間社会の普遍的真理だと思います」。
ビジネスなる語が出てしまいました。
ちなみに、だからといって、こちらは否定するつもりもありません。なんといっても、2つのジャンルの選者に選出された出口治明さんです。
「社会」で出口治明さんがとりあげたウォーラー・ステイン『近代世界システム』とベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』(の記事)は、興味深く読みました。
人文からはなれて、「科学」ジャンルでの取り上げ方は、どうかというと、これはもう一般的でした。
P40
「ざっくり超訳」
あらゆる生き物は
環境に適応したものが
生き残り、他は消滅。
その繰り返しが進化。
あっけないほど、でした。
むしろ、この「科学」で、へーえだったのが、その一つ手前の『プリンキピア』の説明でした。そうです、あのニュートンさんがリンゴが木から落ちるのを見て、重力を発見したというあの本『プリンキピア』。
サブタイトルが「自然哲学の数学的諸原理」だそうです。この数学が重要でした。
P40
ニュートンといえばリンゴの逸話が有名だ。だが彼は、リンゴが落ちる仕組みを見つけたのではない。「リンゴにも天体にも同じ万有引力が働く」という、より普遍的な原理を解明したのが、彼の最大の功績といえる。
「地上から天体まですべての物質の運動を、数学的な法則で説明したのです」と鎌田さん。これ以前にケプラーが提唱していた天体移動の法則も、ニュートンの数式できれいに解明できた。
さらに、この数式からハレー彗星の出現周期や太陽系第8惑星(海王星)の存在が予言され、そのれらは見事、的中する。「宇宙は物理法則に従って動く」という世界観は、プリンキピアから始まり、現代も続いている。
→ 「数式できれいに解明できた」というところに、どきっとしました。この世界の森羅万象を数式できれいに(シンプルに)表したい! ってすごい夢です。素数なんてのも、世界と結びつけると、どうなることやら?
ちなみに、古典力学(ニュートン力学)を構築しただけでなく、数学分野で微分積分法を発見したのも、ニュートンさん。なるほど、とうなずいてしまいます。
「世界をこう変えた」
この時代はまだ、自然界のすべてを神が差配するという考え方が強かった。ニュートンの発見をきっかけに、宇宙の支配者の座は「神」から、「物理法則」へと移っていく。科学的な世界観は、ここから始まったのである。
◆ ◆
沼野充義さんの「世界文学」を読んでいて、『カラマーゾフの兄弟』のところで、おやっと思いました。P24「耽読ポイント」に殺人、テロ、児童虐待...現代社会の問題が詰まった重量級の名作とあります。解説文にも、舞台は約150年前のロシアだが、殺人・テロ・児童虐待など、まさに今の日本が抱える陰惨で深刻な社会問題が強烈なインパクトをもって描かれている。とありました。「殺人・テロ・児童虐待」が2度も出てきました。
しかも、たまたま読んでいた別の本に、この「殺人・テロ・児童虐待」と、よく似たフレーズが出てきたのです。
(いまの日本社会にもドストエフスキー的なものが、いたるところに潜んでいるという感じがします。それを整理して三つの次元で考えてみたいと思います。)
P295
二つ目は、現代社会では、ドストエフスキー的現象とでも呼ぶべきものがいたるところに見られるということです。これは日本に限らず、世界的な現象と言ってもいいかもしれません。ドストエフスキーがいまだに「現代的」な作家と呼ばれるのは、何と言っても、彼が現代のさまざまな深刻な問題を先取りした形で取り上げた、いや単に先取りするだけではなくて、深く本質的な形でそれをとらえきっていたからでしょう。だから彼の文学は、時代を超えていまも変わらず「最先端」と感じさせる鋭さと重さがある。
何を念頭に置いているかと言えば、ドストエフスキーの小説には、「殺人」「テロリズム」「幼児虐待」といった、現代的で陰惨な社会問題が強烈な形で出てくるということです。(以下略)
書名等は『世界は文学でできている/対話で学ぶ<世界文学>連続講義』(沼野充義著/光文社刊/2012年01月)です。著者は同じ沼野充義さんですが、まさか同じようなフレーズが別の本にも出てくるとは思いませんでした。この本は「対話で学ぶ<世界文学>連続講義」とあるように、ゲストとの対話(対談)形式をとっています。その最後のゲストが亀山郁夫さんで、タイトルが「現代日本に甦るドストエフスキー」でした。対話の行われたのが2010年5月2日とあります。下記に抜粋したように、『人生を楽しくするおとなの教養 名著いっき読み』の初出は2011年~2016年ですから、2010年からしばらくのころ、沼野さんのドストエフスキーと日本についてのキーワードには、「殺人」「テロリズム」「幼児虐待」があったのでしょう。
ちなみに、亀山郁夫さん訳、ベストセラー『カラマーゾフの兄弟1』(光文社古典新約文庫)が出版されたのが2006年でした。
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巻末の記載によれば
本誌は日経おとなのOFF 2011年3月号、2012年12月号、2016年9月号の記事を採録したものに、加筆・修正したものです。
だそうです。ちょっと古いかと思いきや、扱っている内容から、それほど支障は感じませんでした。どの記事が、どの時期のものかは、示されていませんでした。
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