[NO.1606] 世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内/高校生から大人の学び直しまで

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世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内/高校生から大人の学び直しまで
小池陽慈
晶文社
2022年03月15日 初版
285頁

有名私立中学の入試問題は、なぜ難問が多いのかと問われれば、なにを今更と言われそうです。いわゆる偏差値の高い学校ほど、洗練・工夫された問題もあるでしょうが、大人もすぐ手をだせる国語はどうでしょう。読解問題の設問には、中学・高校・大学入試まで、どれにも共通している種類があります。たとえば指示語「それ」の指すものはどれか、このときの人物の気持ちを次から選びなさいのようなものです。では、中・高・大での問題の違いはどこにあるのかといえば、書かれた文章のレベル、対象年齢でしょう。言いかえれば、出典とされた本は書店のどこの棚に並んでいるか思い浮かべるとわかりやすそうです。学童対象の物語が並ぶ棚、時事問題を扱った新書の棚、今や絶滅危惧種のような純文学小説の棚のどこに置かれていたかです。

易しい問題では選考できっこないから、おのずと難問が並ぶ入試問題。本書の扉裏には次の紹介文が掲載されていました。

大学入試に出題される評論文は、なぜ難解なものが多いのか? それは、その多くが「世界に山積される数多くの課題」に取り組む上で必要とされるものだから。評論文を読み解くことは、世界をよきものにするための最良の独学の道である。国民国家、資本主義、グローバリゼーション、新自由主義、ポピュリズム...世界のいまを知り、未来を作るために必要な知識を伝える、学び直し読書案内。高校生から社会人まで、必読教養入門書・良書30冊の紹介とその読み解き方。

こんなにストレートな説明は他にありません。本書の想定する対象読者が18歳あたりだからでしょう。

P004
 ではその難解さは、いったい何に由来するのか?
 もちろん原因は、一つではありません。
 ただ、はっきりと言えるのは、

  一定レベルの専門的な用語(=述語)やテーマについての前提的な知識がないと読み取れないような内容が多い

 という点は、間違いなく大きいということです。(途中略)入試や教科書やメディアに見られる"難解"な文章の多くについて、僕は、

  この社会の未来を担う僕たち一般の人間こそが、こういった文章を読まねばならないのだ!

 とも思うのですね。おそらく、いや、間違いなく、試験の作成者である大学の先生も、教科書を編集した先生方も、あるいは、その研究者に記事の寄稿を依頼した新聞の編集者も、同じような思い、信念から、そういった文章や書き手を選んだのではないでしょうか。(以下略)

そうした文章を読むための前提知識、それらを手に入れるのにふさわしい良質な入門書、すなわち"評論文読解のための読書案内"が本書なのだそうです。

熱い思いのこもった文章です。本書の著者は大学受験予備校に勤務だそうで、受験生には、どう受け止められるのか気になります。

 ◆  ◆

推薦図書01
森達也『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ 増補版 世界を信じるためのメソッド』(ミツイパブリッシング)
難易度 1/5

推薦図書02
佐々木毅(たけし)『民主主義という不思議な仕組み』(ちくまプリマー新書)
難易度 2/5

推薦図書03
遅塚忠躬(ちづかただみ)『フランス革命 歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書)
難易度 2/5

推薦図書04
重田園江(おもだ・そのえ)『社会契約論 ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』(ちくま新書)
難易度 3/5

推薦図書05
坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(岩波新書)
難易度 3/5

推薦図書06
石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ なぜ文明国ドイツにヒトラー独裁政権が誕生したのか?』(講談社現代新書)
難易度 3/5

推薦図書07
水島治郎『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)
難易度 3/5

推薦図書08
小熊英二『社会を変えるには』(講談社現代新書)
難易度 3/5

推薦図書09
高澤紀恵『世界史リブレット29 主権国家体制の成立』(山川出版社)
難易度 3/5

推薦図書10
谷川稔『世界史リブレット35 国民国家とナショナリズム』(山川出版社)
難易度 3/5

推薦図書11
ヨハン・モスト『マルクス自身の手による資本論入門』(大月書店)
難易度 4/5

推薦図書12
川北稔(みのる)『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書)
難易度 2/5

推薦図書13
吉見俊哉『博覧会の政治学 まなざしの近代』(講談社学術文庫)
難易度 3/5

推薦図書14
三谷太一郎『日本の近代とは何であったか 問題史的考察』(岩波新書)
難易度 3/5

推薦図書15
加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社→新潮文庫)
難易度 2/5

推薦図書16
川村湊『海を渡った日本語 植民地の「国語」の時間』(青土社)
難易度 4/5

望月優大『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)
鈴木江理子『アンダーコロナの移民たち 日本社会の脆弱性があらわれた場所』(明石書店)

推薦図書17
石原俊『現代社会学ライブラリー12 〈群島〉の歴史社会学 小笠原諸島・硫黄島、日本・アメリカ、そして太平洋世界』(弘文堂)
難易度 4/5

推薦図書18
安彦良和『虹色のトロツキー』全八巻(中央公論新社)
難易度 2/5

推薦図書19
吉田裕『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)
難易度 3/5

推薦図書20
モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』武井みゆき、渡部良子訳(現代企画室)
難易度 3/5

推薦図書21
四方田犬彦『驢馬とスープ papers 2005 - 2007』(ポプラ社)
難易度 2/5

推薦図書22
岩牟礼道子『蘇生した魂をのせて』(河出書房新社)
難易度 3/5

推薦図書23
森山至貴(のりたか)『LGBTを読み解く クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)
難易度 4/5

推薦図書24
辺見庸『たんば色の覚書 私たちの日常』(毎日新聞社→角川文庫)
難易度 3/5

推薦図書25
金森詩恩『私のエッジから観ている風景 日本籍で、在日コリアンで』(ぶなのもり)
難易度 1/5

推薦図書26
下地ローレンス吉孝『「混血」と「日本人」 ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社)
難易度 5/5
ケイン樹里安、上原健太郎編著『ふれる社会学』(北樹出版)
難易度 3/5

推薦図書27
内藤正典『プロパガンダ戦争 分断される世界とメディア』(集英社新書)
難易度 3/5

推薦図書28
ジャン・ベルナベ/パトリック・シャモワゾー/ラファエル・コンフィアン『クレオール礼賛』恒川邦夫訳(平凡社)
難易度 5/5

推薦図書29
庵 功雄『やさしい日本語 多文化共生社会へ』(岩波新書)
難易度 2/5

推薦図書30
岡真理『思考のフロンティア 記憶/物語』(岩波書店)
難易度 5/5


【追記】
せっかくメモをとりながら自分で入力したのに、出版社サイトにそっくり掲載されていました。
【本書で紹介する推薦図書30】
リンク、こちら 

どうせなら、本書で紹介されていても、この出版社サイトにとりあげられなかった書名を抜き出せばよかったかな。