[NO.1597] 占領期カラー写真を読む/オキュパイド・ジャパンの色/岩波新書1964

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占領期カラー写真を読む/オキュパイド・ジャパンの色/岩波新書1964
佐藤洋一衣川太一
岩波書店
2023年02月21日 第1刷発行
248頁

本書のことは、片岡義男さんが週刊朝日の書評で紹介していました。新書とはいえ、何枚も紹介される終戦直後の風景、人々。鮮明なカラー写真なので、いつまでも見入ってしまいました。はっとさせられることばかりです。

占領期(1945年~1952年)、来日していた関係者が撮影したプライベート写真は、(日本人には信じられないことに)その大半がカラー撮影されたものでした。焼け野原の東京や貧しい地方ですから、どうしたって色彩には乏しいと思いきや、そこに見出せる鮮やかな色に驚きを覚えます。山手線の高架を走る車中から撮られた闇市、そこに並べられた中に見つけたマグロの赤い色。今では目にすることもなくなった子守の様子では、健気に背負っているおかっぱ頭の子の健康そうな顔色、赤ちゃんの着ている優しいピンクの色合い。白黒写真からは想像の及ばない、当時のリアルな実感がよみがえってきます。ここに紹介される写真の数々から、70年以上の時を越えて、こちらの想像をかきたてられます。そこに呼吸をして生きていた人々の体温が実感されます。今となんにも変わらないんだよ、と声をかけられたみたいな感覚。

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どうして今頃、それも終戦直後のカラー写真なのか? その疑問に、本書は学術書のつくりで、丁寧に答えます。

アメリカでは戦前の段階で、すでにカラーフィルムが普及していました。コダクロームフィルムは現像代込みの販売だったので、コダック社に撮ったフィルムを送るだけでよかったのです。そうして返送されるのはスライド用のものでした。理由は値段です。紙焼きの方が1.5倍以上も高かったといいます。しかも画質も格段に違い、保存過程での変質の問題もありました。紙焼きにはデメリットの方が多かったのです。

上記、片岡義男さんの書評には、こう記されていました。

P231
日本に来た占領軍関係者はカラースライドを撮影し、家族や友人と鑑賞する。任期が終わればスライドは本国に持ち帰られ、撮影者やその配偶者が亡くなるまで家の外に出ない。

その後、ガレージセールで出されたカラースライドは、セールで買った第三者の手によりネットオークションにかけられました。筆者によれば、撮影者や撮影時の状況等の子細は知る由もないことが多いのだとか。しかも人気のあるミリタリーものなどを中心に、ばらばらにされてしまったカラースライドは、前後のつながりを失うと、ほとんどが撮影時の場所すら特定できなくなってしまうともいいます。

資料的な価値を損なわないためにも、その保存が望まれるのだと訴えています。

当時、占領軍関係者の撮った写真は、膨大な量になります。撮影された場所も対象も多岐にわたり、資料的な価値の高さはいうまでもありません。本書の掲載されたものだけでも、見飽きることがありません。

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本書を紹介する片岡義男さんの書評は、『週刊朝日』2023年4月28日増大号「週刊図書館・今週の一冊」に掲載されました。『AERA dot』で、読むことができました。リンク、こちら

ところが、その『週刊朝日』がなくなってしまったので、びっくりです。
『週刊朝日 2023年6月9日休刊特別増大号』の表紙は、編集部の写真でした。