ドミトリーともきんす 高野文子 中央公論社 2014年09月25日 初版発行 125頁 再読 |
漫画家高野文子11年ぶりの新作コミックだそうです。(2014年に出版されたときの記事です。ちなみに高野さんの漫画はこれが初読です。)内容は「自然科学の本」について、漫画で読書案内する。ちょっと、びっくりです。
大きさと厚みから、ぱっと見は絵本です。でもその内容は科学書を紹介する本なのですから、なかなか意表をついています。高野さんらしいのびのびした絵とレイアウト、「遊び心」満載の魅力的な各章の構成など、どこをとっても「楽しんで」つくっているのがよく伝わってきます。おまけに判型がB5の大きなサイズ。どのページも凝ったレイアウトなので、必然的にこんな大きさになったのでしょう。ですから、文庫化は難しそうです。
小説のような文学作品の紹介とは違って、本書で扱っているジャンル、科学書の紹介は、一般に難しいものです。それをとてもうまく書いていて、読んでいるとどれも興味がわいてくるものばかりでした。
「漫画」ということもあってなのか、google検索では、この本の目次をなかなか見つけられませんでした。出版社サイトにも載っていなかったのは残念です。目次だけでなく、内容についても、最初の方でヒットしたのは、あいまいなものがほとんどでした。そんななか「マンガペディア」サイトに、的確な紹介がありました。高野さんの考案したドミトリーともきんすという「設定」について、説明しています。
学生寮ドミトリーともきんすを舞台に、そこに暮らす「科学する人たち」と一組の母娘の交流を描いた作品。1話ごとに、その話に登場した人物の著作が紹介される。
ここで感心したのが「科学者」ではなくて、「科学する人たち」と呼んだところです。本書の「プロローグ」(P19)に、「会ってみたかったな。ただ、とっても偉い人達だから、お母さんは、あがっちゃって何も言えないと思うけれど。」「だけどもしもよ。彼らがまだ世に出る前の若者で、これまた不思議なことに、わたしたちのご近所さんだったとしたなら、こんにちは、ごきげんいかが? って声をかけてみたいわ。」というお母さんのせりふがあります。
この設定が思いついたところで、『ドミトリーともきんす』が誕生したのでしょう。「こんにちは、ごきげんいかが?」いいですねえ、ほのぼのしてきます。
「あとがき」に、本書成立の経緯のようなものがありますが、おそらく担当編集者の田中さんとの会話が弾んだことでしょう。個人的な希望では、「こんにちは、ごきげんいかが?」の若者に、アインシュタインも加えて欲しかったな。日本人以外でもガモフさんが入ったのですから。ガモフのトムキンスシリーズは、「ブルーバックス」と並んで中学時代の愛読書でした。どちらも、かつて科学好きだった少年にとっての啓蒙書です。
ここで、上記の「1話ごとに、その話に登場した人物の著作が紹介される。」について、紹介します。
まず1話ごとに、ここぞというところの抜粋があります。それぞれが、どれもいちばん興味深いところが、うまく選ばれています。次のページには、それぞれの文章が収められている本の表紙写真(書影)が載っています。次のページをめくると、いよいよ紹介文が始まります。
その紹介文が秀逸です。書き手は編集者の田中祥子さん。それぞれの出典(出版社名も)がきちんと示されています。何よりも、紹介している文章がいいのです。
あやうく、見逃すところでした。次のサイト「meseum shop T」には、完璧な「もくじ」が載っていました。できるなら、ページ番号も省略していなければ、それぞれの内容が、どれくらいの分量なのかもわかって、もっと便利でした。
もくじ 球面世界/006 ドミトリーともきんす/017 プロローグ/018 ともきんすと白銀荘について/112 参考資料/114 Tさん(東京在住)は、この夏、盆踊りが、おどりたい。/121 ブックデザイン 服部一成 |
いやはや、見くびっておりました。「MATOGROSSO」(Webメディア・マトグロッソ [イースト・プレス])というサイトに載っていた紹介は、とんでもなく充実していました。「予告・科学者の本棚」から「1 トモナガ君 おうどんです」まで、そのままの内容(漫画も)が掲載されています。
検索結果の上位を過ぎたあたりから、こちらの要望に沿って的確に応えたサイトが並びます。あれま。話がそれちゃいました。
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