[NO.1571] わたしのなつかしい一冊

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わたしのなつかしい一冊
池澤夏樹
寄藤文平
毎日新聞出版
2021年07月20日 印刷
2021年08月5日 発行
223頁

企画が成功している。依頼された著名人のバランスが見事。ずらっと50人が裏表紙に載っていました。

益田ミリさんや辛酸なめ子さんといった若手(今やベテラン?)から重鎮の高階秀爾さん、山崎正和さんまで、とにかく多彩です。分野の広さでは中村吉右衛門さん、小島慶子さんのお名前も。

選書の特徴では、佐藤優さんが『世界の共同主観的存在構造』を選ぶのは順当ですが、『シラノ・ド・ベルジュラック』を選んだのは、意外にも村上陽一郎さんです。しかも、この本に出会ったのは小学校二年生くらいのころ、お父さんの書棚から取り出したんだそうです。ですから大正十一年初版のもので、訳者はおそらく辰野隆、鈴木信太郎だろうとのこと。今の小2で、いったいだれが読めるでしょうか。

初出は「毎日新聞」2020年4月4日~2021年4月10日。本書に掲載するのにあたって、3つのテーマに分けてあります。編者池澤夏樹さんと編集部のアイディアでしょうか。そうそう、活字が大きいのです。老眼にとってはありがたいことでした。それぞれの原稿ごとに寄藤文平さんのイラストもついていて、あたまには書名、作者名、(訳者名)、出版社名が銘記されています。50人分が同じフォーマットで、ひとりあたり4ページ分。読みやすいし、途中、どこから読んでもいい。コラム集みたいです。

いちばんの売りは、選書の意外性がもしれません。そんな本を選んじゃうの? という印象を受けました。『赤頭巾ちゃん気をつけて』『どくとるマンボウ青春期』『ヘンリ・ライクロフトの私記』『楡家の人びと』など、しばらく忘れていたので、おもわず頬がゆるんでしまいました。もちろん古典『新訂 方丈記』や 『時間と自由』(ベルグソン)まで。だれが選んだかといっても、なかなか当てられない気がします。

それにしても、編者池澤夏樹さんによる一冊『オオカミに冬なし』もですが、本書を紹介している「まえがき」のうまいことといったら。要約しようとして、困ってしまいました。テーマ、意見、例(エピソード)、それらをテーマに沿って展開させるための構成、そしてレトリック。みんなが溶け合っているだけに、どれかをすくい上げようとしても、うまくいきません。残念ながら、断念せざるを得ませんでした。