[NO.1570] 文具の流儀/ロングセラーとなりえた哲学

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文具の流儀/ロングセラーとなりえた哲学
土橋正
東京書籍
2011年08月24日 第1刷発行
357頁

各文具メーカーの「フラッグシップ」となる名品を徹底取材。名品の名品たる所以を探り、美麗な写真とともに紹介する文房具大全。文房具ファン必携の完全保存版。

簡にして要を得るとは斯くの如し です。単なる文具のおしゃれな紹介ではありません。経営者が読む雑誌に連載の風合いです。

文具という呼び名がステーショナリーに取って代わられたのはいつころのことだったでしょうか。カラフルといえば聞こえはいいけれど、雑貨屋の棚で並ぶそれらには目がチカチカします。実用性がともなえば、まだいいのですが。

だからといって、ステーショナリー全般が嫌いかというと、いちがいにそうとばかりはいえないところが自分でも困ります。笑うしかありません。(笑)ですね。

本書『文具の流儀』は、質実剛健のものばかり。サブタイトルにあるとおり、長い年月にわたって愛用されてきた品々が並びます。

編集方針が頑固一徹、一社一品なので、ほかにも紹介してほしい文具がたくさんあるのに、そこはだめなのです。帯にある「なぜ、その文具は定番なのか。」という一貫したテーマなので、経営者の雑誌にでも連載された記事がもとになっているのかと、思ったくらいです。「はじめに」から引用します。

P.004
 38社一社一社に訪問させていただき、創業のいきさつからはじまり、その文具がなぜ生まれたのか、どこに一番力を注いで作ったのか、といったことをお聞きし、その実力の一端を私なりにまとめてみました。(途中略)
 そこには文房具の哲学ともいえるものが脈々とながれているように感じてなりません。

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大人の文具集ですね。写真も高級誌のグラビアを飾るような気品あるものばかり。巻末には「問い合わせ先リスト」が完備しています。

本書で初めて知った文具も数多くあります。そんななか、とくに贅沢に感じたのがノートでした。

P257
スマイソン | パナマノート

1887年ロンドン・ボンド・ストリート133番地で創業。このパナマノートの表紙を開くと三つの「ロイヤル・ワラント」が並びます。エリザベス女王、エディンバラ公。チャールズ皇太子のものだそうです。

P.280
美篶堂 | みすずノートマーブル染め

色違いの並んでいる写真が、とにかく美しいのです。手製製本とのこと、納得しました。表紙は布製です。マーブル!

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極めつけがこれ

P.020
ライフ | チットブック

形状がすごい。英国貴族が使う出納帳と見まごうばかり。使用目的の説明を読んで、さらに驚愕。一言でいうと「手控え帳」だそうです。

P.20
会社が重要な書類を受け渡しする時に、誰が、どんな書類を、いつ誰宛に渡したかの記録を残すためのもである。(途中略)
その(金銭出納帳の)重要書類版と考えるとわかりやすい。

「帳簿製本」という特殊な製本は、耐久性に優れるだけでなく、構造上からページを破ればすぐにわかってしまうので改ざん防止になるといいます。1ページおきに吸い取り紙がとじ込まれているのは、記入が済んだら素早くページを閉じられるための工夫で、これは盗み読み防止のためだそうです。

とり上げているのは、こうした高級なノートだけではありません。たとえば、P.190 ツバメノート | ツバメノートです。大学ノートのイメージはこれでしょう。そして P.242 コクヨ S&T | キャンパスノート。このキャンパスノートは50年以上の歴史があるのだとか。表紙デザインは定期的に変更されています。現在のものは4代目だそうですが、初代からすべてに見覚えがありました。初代のノートは偶然にも捨てずに保管してありました。

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ノートに加え、メモ帳にも目を見張るものがありました。たとえば チャールズレッツ | クラシックシリーズです。歴史が古いだけでなく、今でも愛される理由は造りを見ればわかります。丈夫にするため、角に金色の金具を配しても、武骨にならない品のよさがあります。

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興味があったのが万年筆でした。国産万年筆メーカー3社、パイロット、プラチナ、セーラー。

パイロットという社名は創業者がもと船乗りだったことに由来します。そもそも商船大の卒業生で、のちに同校の教授だったとき、製図用カラス口にいいものがなかったことから、自分で作ったことがきっかけで万年筆づくりの道に入ったのだそうです。セーラーは海軍の街、呉で創業したのだそうです。ただ、プラチナ万年筆についてだけは、由来が書いてありませんでした。その代わりといってはなんですが、万年筆収集家として有名だった梅田晴夫さんについて説明がありました。

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トップがトンボ鉛筆 | 8900で、最後を飾るのがロットリング | ラピッドグラフでした。