本の雑誌2022年7月号 特集=今、ルポルタージュが熱い!

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懐かしい名前に出会う。
巻頭「本棚が見たい~書斎」に遠藤諭さんが登場していました。肩書き「角川アスキー総合研究所主席研究員」だそう。アスキー関連というのは変わらないにしても、あたまに角川が付くのですね。このごろ、角川だけでなく、KADOKAWAとか、とにかく「角川」関連を見かけない日はない。

遠藤諭さんのご自宅というのがまた、いっぷう変わっています。1926年(大正15年)築をリノベした洋館のようなアパートメントの3階

P.9
玄関を入ると天井高三メートル、長さ六メートル、幅一・八メートルという廊下が広がっている。左手にはアールの付いた窓が並び、窓の向こうで樹齢百年のイチョウの葉が風に揺れている。イチョウの対面には造り付けられた高さ二メートル五十センチ、幅四メートル弱のがっしりした本棚。

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今号の特集「いま、ルポルタージュが熱い!」
巻頭記事「21世紀ルポルタージュ全集を作ろう!」対談、東えりか・神谷竜介・すずきたけし

これが全部で35巻の全集という企画。本の雑誌恒例の一覧表に仕立ててある。へーえです。海外からの翻訳が5冊。なにしろ最近の動向に疎いもので。もっとも第1巻村上春樹の『アンダーグラウンド』は、前世紀の出版だったはずです。ほかに35巻中、知っていたのが2冊しかありませんでしたので、なんともいえまぜん。

「開高健とルポルタージュ」は、もうすこしボリュームが欲しいところ。「晩聲社のルポルタージュ」はよかった。『春は鉄までが匂った』や『君が代は微風にのって』は買ったような。
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P.50
新刊めったくたガイド
高遠佐和子

松波太郎『カルチャーセンター』(書肆侃侃房1700円)
青春小説でありさまざまな人々による小説論でもある
さまざまな作家たちが生み出した小説と、一緒に生きてきたことの意味を考えさせられた
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P.54
新刊めったくたガイド
北上次郎

加納朋子『空をこえて七星(ななせ)のかなた』(集英社1600円)
いやあ、いいなあこれ。これほど読後感のいい小説も珍しい

北上次郎さんが手放しでほめています。
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P.72
マガジン多誌済々
「近代出版研究」創刊!
下井草秀

創刊されたという「近代出版研究」について紹介しています。とりわけ、「ゴシップ好き」にとって、こんなネタを提供されてしまっては。

P72
 大正7年、宮武外骨は自らの発行する雑誌「スコブル」を立ち読みする者に憤り、袋とじを導入。その怒りは万引きにも向けられる。外骨曰く、当時、神保町の東京堂小売店では、万引き犯を見つけると、「私刑として浦の水道側に引擦り行きて~罵って打ち擲き、寒中に頭から水を掛て懲した上、巡査を呼んで引き渡す事にして居るさうな」。

ちなみに、下井草さんが雑誌「近代出版研究」を買ったのが、まさにその東京堂書店とのこと。
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P84
サバイバルな書物(83)
人類と世界のために
ほどほどで死ななきゃならない
でも老いたくない
=服部文祥

『若返るクラゲ 老いないネズミ 老化する人間』
ジョシュ・ミッテルドルフ、
ドリオン・セーガン
矢口誠訳
集英社インターナショナル
装丁・新井大輔


 意識とはなんだ。いつからあった? なぜ生きている? 命とはなにか。なぜ、この宇宙に生じたのか。
 そんなことを面白く書いた本を、ジャンルを問わず紹介するのが本連載の趣旨である(たぶん)。

こんな簡潔にしてストレートにテーマを提示してくれたのを目にするのははじめて。以降展開する今回の記事は読みでがありました。失礼ながら、今回特に気合が入っているような感じ。この記事、しばらく記憶に残りそうです。

著者ミッテルドルフ先生の経歴がすごい。
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P86
断捨離血風録
箪笥
=日下三蔵
は、あえて今回パス
(身につまされて)廊下の写真が頭から離れません
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P.99
●ユーカリの木の陰で
浴衣の柄
◎北村薫

『私の少年時代』(澁澤龍彦著、河出文庫) の解説を妹の澁澤幸子が書いている。

戦前の澁澤龍彦の子ども時代の話が、まるで幻燈のように映し出されるようにづづられます。
澁澤家は毎夏を房総で過ごしました。以下、孫引きと北村先生の引用です。

P.99
 みんなで砂浜にすわって、降るような星空を仰いだ。天の川が鮮やかに見えた。
「北斗七星わかるかい?」
 と父の声がする。アイスクリームなどを売っている森永キャンプストアから、風にのって音楽が聞こえてくる。(中略)
 眠くなってきた妹を父がおんぶして帰途につく。兄が下駄を脱いで走り出すと、私も後を追って走った。

 この海岸散歩に、妹たちは《おそろいの朝顔柄の浴衣に赤い絞りの三尺を締め》て行った。兄はどうだったか。夜の浜辺を走る小柄な子一一後にさまざまな仕事をすることになる少年、澁澤龍彦は《ミッキー柄の浴衣》を着ていた。妹の目を通して、それが見える。
 書かれねば消える遠い遠い夜。それが一瞬、自分の記憶のようによみがえる。

戦前に「森永キャンプストア」だの「ミッキー柄の浴衣」というのには、なんとも複雑な気分がまじります。それでも、この手の話に弱い。幸せだった子どものころの話、それもなぜか、みんな(?)季節は夏なんです。
書かれねば消える遠い遠い夜。それが一瞬、自分の記憶のようによみがえる。

こんな気持ちが北村薫さんの「いとま申して」シリーズにつながるのではないでしょうか。

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「チョロギ」のはなしも面白し。
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P.118
書籍化まで(α)光年
テリエ『異常(アノマリー)』が楽しい!
円城塔

『異常(アノマリー)』
エルヴェ・ル・テリエ
加藤かおり訳/早川書房
装丁・早川書房デザイン室

やっぱり円城塔さんはすごい。

著者は「ウリポ」の会長をつとめたことがあるのだという。このページで紹介している、リチャード・パワーズ『幸福の遺伝子』、アンディ・ウィアー『火星の人』のどちらも読んだことありません。
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P.120
タイムトラベラーさんいらっしゃい
時を超える家族の再会
藤岡みなみ

ケン・リュウ短篇傑作集『母の記憶に』(古沢嘉通ほか訳/ハヤカワ文庫SF)

藤岡さんがこの記事で紹介している短編映画を見る。見始めて早々に感情移入してしまいました。

藤岡さんが紹介しているサイトは

P.120
短編映画化もされていて、2022年5月現在、日本語字幕付きのものをFilm Shortageというサイトで無料で視聴できる。"Beautiful Dreamer"という、時間SF好きは思わずニヤリとしてしまうタイトルもついている。

とありましたが、さっきYouTubeで見られました。(日本語字幕付き、25分7秒) リンク、こちら