「タイムトラベルもの」が好きだ

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本の雑誌2022年5月号
p128
たいむとらべらーさんいらっしゃい
時間SFの幕の内弁当
藤岡みなみ

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時間の王
宝樹
稲村文吾、阿井幸作訳
早川書房
装丁・早川書房デザイン室

劉慈欣『三体』の公式二次創作(今や、こうしたものがあるとは...)『三体X』で有名になった中国・四川省生まれの宝樹は、日本のSFにも影響を受けたと公言している。

びっくりしっぱなし。『三体』は刺激が強すぎて、今でもときどき頭のなかに情景がよみがえることがある。それなら「公式二次創作『三体X』(これもまた読んでみたいもの)」の作者が書いたという『時間の王』なる作品だって、これまた超強烈なイメージが炸裂しまくっているのではないかと身構えてしまうと、これが違うらしい。

宝樹が昨今の中国SFブームの一翼を担う存在なのは間違いなく、やや難解で少し読者を選ぶ『三体』よりも、『時間の王』のほうがより多くの人が気軽に楽しめる、入り口のような本になっていると思う。

ほっと安堵した。

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今回、この記事に目がとまった理由が次に引用する冒頭だった。

 タイムトラベル小説を好きになってもらおうと、またはすでに好きだということを自覚してもらおうとするとき、まずどの本を勧めるか。私はこのような場合大抵、ケン・グリムウッドの『リプレイ』か、広瀬正の『マイナス・ゼロ』を推してきた。

「タイムトラベル小説を好きになってもらおうと、またはすでに好きだということを自覚してもらおうとするとき」って、ふつう、そんな場面が想定されること事態、まず思いつかない。すでにここまでで十分マニアック度の高いことが予感される。

リプレイ』と『マイナス・ゼロ』を推す藤岡みなみさん。そんな彼女が紹介する作品とは、いったいどんなものがあるのだ? とても気になる。それが『時間の王』だ。短編集で、7本もの作品が収録されているという。ここにざっと紹介されているのを読むだけで、いてもたってもいられなくなる。