[NO.1561] 心はどこへ消えた?

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心はどこへ消えた?
東畑開人
文藝春秋
2021年09月10日 第1刷発行
2022年03月01日 第4刷発行
251頁

かつて、週刊誌のエッセイは有名どころの小説家の書くものだった気がする。筆の立つ文士が書いていたような。では、そのかつてとは、いつの時代のことなのか? と問われれば、昭和30年代ころまでかな。第三の新人たちはもう違ってくるような。またはなしが脱線しそうなので、止めておくとして。

週刊文春はあの文春砲で有名になったけれども、書評が好きでした。いや、これもまた脱線しそう。エッセイも有名どころが多かった。この東畑さんのものもまた、初出は「週刊文春」掲載です。

初出
「週刊文春」2020年5月7・14日号~2021年4月29日号掲載
「心はつらいよ」を改題・加筆修正

これが読ませる文章なのには驚きました。どんどん先を読みたくさせられます。こちらは著者とは初対面なので、特に出だしのあたり、つぎつぎとページをめくる手がとまりませんでした。現代の筆が立つとはこういうのか、と思いながら著者を確認するとこれがまた、文芸とは異なる分野の職業。もちろん、昔からお医者さんが本業の作家も多くいましたから、そういうのも考えられるけれど、やっぱり作家でもなさそうだし。

奥付上の略歴で確認すると、「臨床心理士」というのは聞いたことがありますが、続けてある「公認心理士」とは初耳。しかも博士(教育学)って、どういうつながり? 十文字学園女子大学で准教授で白金高輪カウンセリングルーム開業とか。ますますわかりません。白金高輪でクリニックとかって、なんだ? 女子大と白金高輪?

 ◆ ◆

先にも書いたように、P5からの「ちょっと長めの序文 心はどこへ消えた? ――大きすぎる物語と小さすぎる物語」が、いちばん面白く読めた。わざと意識しているっぽい工夫なのだろうが、村上春樹の小説みたいな小見出しにも笑った。つぎの展開が気になって読んだ。

本文は春夏秋冬の章立てで、小さな逸話(エピソード)が並んでいる。カウンセリングルームでは、そういうのもあるんだろうなあと思わせられる話もあれば、重い事例もある。ちょこちょこと大学のお話がはさまれる。教員の会議とか講義のエピソードなどなど。

技巧的に文章がうまいというのではないです。文章自体はわかりやすい口語体。軽い新書のノリみたいな感じ。むしろ、はなしの展開、構成の妙というのかな。クライアントの細かな気持ちの揺れ、機微をふまえた上でのやりとりとかが積みかさなって、今の文章が生まれるたのでしょうか。