[NO.1560] 名著の話

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名著の話/僕とカフカのひきこもり
伊集院光
KADOKAWA
2022年02月16日 初版発行
190頁

扉裏のコピーがうまい、プロの技。制限された字数のなかで、的確にまとめてある。これに尽きる。

NHK Eテレ「100分de名著」で
出会った約100冊から、
伊集院光が熟読して
心に刺さった3冊を厳選。
名著をよく知る3人と再会し、
時間無制限で
新たに徹底トークを繰り広げた
「100分de語りきれない名著」対談!

openBD データベースから

NHK「100分de名著」で出会った約100冊より、伊集院光が、心に刺さった3冊を厳選。名著をよく知る3人と再会し、時間無制限で新たに徹底トークを繰り広げる、100分de語りきれない名著対談!

■川島隆(京都大学准教授)と語る、カフカ『変身』
 ──"虫体質な僕ら"の観察日記

■石井正己(東京学芸大学教授)と語る、柳田国男『遠野物語』
 ──おもしろかなしい、くさしょっぱい話たち

■若松英輔(批評家、随筆家)と語る、神谷美恵子『生きがいについて』
 ──人生の締め切りを感じたとき出会う本


ふたつの要約文は、ほぼ同じ内容でした。こんなのに出会ってしまっては、何をか言わん哉。屋上屋を架す、(紹介文は)これだけでほかはもういりません。あとは、いつもの感想文というか駄文を連ねるくらいしか。

選ばれた3冊のなかでは、カフカ『変身』と柳田国男『遠野物語』がよかった。神谷美恵子『生きがいについて』は、ちょっとぴんとこず。こちらがまだ「人生の締め切りを感じ」ていないということなんでしょうか? ちなみに、恥ずかしながらこの3冊とも通読したことがありません。せっかく、『変身』『遠野物語』は持っているのにね。

そんな程度の読者が伊集院さん『名著の話』を読むと、まるで先の2冊を読んだ気になっちゃっえました。それもお得な感じの読後感を得られたといいますか。

「へーえ、うんうん」といった感じで、伊集院さんお得意の「うんちく」に終わらせない「お得な読後感」が得られたのです。

NHK「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」という番組が好きです。番組で伊集院さんは準レギュラーと呼ばれています。そこでは(これもすごいネーミングの)日直アシスタント田牧そらちゃんから「今日も(お題に関係する○○の)うんちくを聞かせてください」とリクエストされるのが恒例。紹介されるのは、いかにもNHKゴールデンお茶の間向けといった内容です。家族そろってみんなにこにこ、うんちくとはかくあるべしみたいな。いかにも元落語家伊集院さんの役割。

ところがです。この『名著の話』に出てくる伊集院さんは違います。自分の黒歴史を披露しながら経験に引きつけて、対象の本についてを語るのです。

『変身』について

P18
 生徒会長だった僕が突然学校に行けなくなる感じ。兄弟の中で一番心配のない子だった僕が、一歩も家から出られなくなるというあの感じ。それをこんなにわかりやすくカフカは書いているのに、全然スルーしてた。

当意即妙、見本のような受け答えです。これを伊集院さんは話術なんてしゃらくさい言い方はせずに、ただ「トーク」と呼びます。

ここで趣旨とは離れますが、いかにも伊集院さんの魅力というか、彼らしい目のつけどころ、ポイントのようなものが上記発言の手前にありました。

P17
思春期に太宰治の『人間失格』を読んで、僕の話だと思ったという経験はあるんです。でも『人間失格』は、最初ドンと来たけど、時が経つにつれてインパクトが薄れていったんです。共通点よりも、自分とまったく違うところが見つかっていくんですね。あれ? 主人公モテてる? とか(笑)。

うまいですねえ。あえてここを切り取るなんて。太田光さんと伊集院光さんの違うところといったらいいのか。漫才と落語の違いといったらいいのか。どうなんでしょ? 話者である自分はスポットを浴びないという。

全然『名著の話』になっていないので、ここまで。

  ◆  ◆

蛇足

番組「100分de名著」伊集院さんの役割は「わかってない人」。未読(の人)というやつですね。伊集院さんいわく

P185
僕の名誉のためにきちんといわせてもらいますと、事前にテーマとなる名著を読むことを禁止されています。

収録後、早速読むのだそうです。「へーえ」