[NO.1526] 編集ばか

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編集ばか/フィギュール彩(40)
坪内祐三名田屋昭二内藤誠
彩流社
2015年11月20日 初版第1刷
152頁
再読

不思議な本だった。新書版よりもやや大ぶりな大きさで、全部152ページ。そんな分量なのに、本書の主眼である対談は全体の半分ほどしかない。そんな成立理由はアフターアワーズ(あとがき)に説明があった。

目次が出版サイトにあったのだが、これも不思議。リンク、こちら。 目次【内容】として「(1)新入社員~(24)ヌードはニュース」が出ているだけ。これは前述の対談の「小見出し」でしかない。しかも、本文ではその後がまだあるのだ。っと思ったけれど、よくよく比べてみると、サイト掲載目次と本書の記載とではズレがある。参った。

目次
第一章 雑誌とプログラムピクチャーの時代(司会・坪内祐三)
[中入り①] 飛行機少年と『風立ちぬ』
[中入り②] 一九七七年の日本映画再発見
第二章 名田屋氏、大いに語る
第三章 補足的セルフポートレート/内藤誠
アフターアワーズ(名田屋昭二)
アフターアワーズ(内藤誠)

訂正版 (対談の)目次
(1)イントロダクション・オブ・ザ・トリオ
(2)企画のはじまり
(3)新入社員のころ
(4)松本清張と木村毅
(5)流行作家との付き合い
(6)題字の大きさ
(7)高見順と佐多稲子の登場
(8)自分の足で稼ぐ
(9)サラリーマン相手の雑誌
(10)五木寛之の『青春の門』
(11)お金のこと
(12)品行と品性
(13)戦犯意識
(14)懐かしい雑誌
(15)アメリカ体験とベトナム戦争
(16)ヒッピー文化とサイケデリック
(17)大橋巨泉、安倍寧、野坂昭如
(18)寺内大吉、色川武大、黒岩重吾
(19)モーレツからビューティフルへ
(20)新聞と週刊誌の違い
(21)スキャンダル記事
(22)記事をめぐるトラブル
(23)「黄金艦隊乗船記」で社長賞受賞
(24)国内留学のこと
(25)怪男児・松井勲
(26)牧野イズム
(27)光文社と神吉晴夫
(28)学生の今昔
(29)撮影現場でのしごき
(30)文化大革命の時代
(31)『ペントハウス』編集長就任
(32)ヌードはニュースである
(33)胃袋パトロール
(34)動くのが好き

 ◆  ◆

そもそもは、坪内祐三さんへの興味から本書を読んだ。出版社サイトのコピーがふるっている。

内容紹介
32 歳で「週刊現代」編集長に抜擢!
脱がせの達人・名田屋と、
東映プログラムピクチャーの鬼才・内藤誠の白熱鼎談!

こんなキャッチーな惹句を目にしただけであったなら、とても本書を手に取ろうとは思わなかっただろう。

名田屋昭二さんは講談社で「週刊現代」編集長をはじめとする出版関係。内藤誠さんは東映の映画監督。坪ちゃんの映画「酒中日記」も監督した。お二方とも1959年早稲田の政経新聞学科卒。しかも、あの木村毅先生の門下生。木村先生と一緒に学生時代のお二人が写った写真も載っている。対談場所は高田馬場の喫茶店ルノワール(早稲田通りだという)。

驚いたことに、本書の企画は坪内祐三さんではなく、内藤誠さんだったという。内容は、いかにも坪ちゃんの好きそうなものばかり。内藤さんいわく、「名田屋からは、途方もなく型破りな話が聞けるんじゃないかと思っ」たのが理由だと。
名田屋さんと内藤さんのお二人から深堀できるのは、坪ちゃんが適任だと見込んだのだろう。二人だけの対談では得られない面白さを引き出している。それだけでなく、解説の必要なところをポイントを押さえてプラスしている。なにしろ、対談の二人は同級生なので、通じ合う内容も多く、脚注の必要な固有名詞などが飛び交うのだ。

お二人、それぞれの人生を振り返る対談内容なので、個人的にはどうしても名田屋さんの話が面白かった。ジャーナリストとしての裏話など。
対談の項目を見てもわかるとおり、1960年代からの社会の変化に沿って、ご自分の仕事を紹介している。「ヒッピー文化とサイケデリック」「モーレツからビューティフルへ」なんて、今や死語。

飛び出す人名が見事。人名に絞った索引を作ると面白そう。対談前半の文壇、作家名が面白い。

映画好きな坪内さんだからこそ、の内藤さんから引き出す面白話も楽しかった。
総じて、お二方の歩んでこられた仕事(人生)は、現代から振り返ると激動だったのではないかな。それだけに中身も濃いような。時代も激しかった気がする。
それにくらべると、平成の後半から現在までは、なんだか徳川時代みたいな。

 ◆  ◆

名田屋さんが講談社に就職したのは、恩師木村毅先生の推薦だった。内定が出ると、『政界ジープ』『真相』バックナンバーをどっさりプレゼントされた。それが後の数々の企画につながったという。

 ◆  ◆

前半の対談を除くと、後半部で面白かったのが内藤さんの書く「[中入り①] 飛行機少年と『風立ちぬ』」だった。初出「en-taxi」40号

「飛行機少年」という視点がいい。『風立ちぬ』は堀辰雄の小説ではなくて、宮崎駿の映画のほう。

内藤誠さんいわく、

P85
宮崎駿の作品の魅力は空を駆ける浮遊感覚の心地よさにあり、『風の谷のナウシカ』や『紅の豚』がわたしの好きな作品だった(以下略)

続けて飛行機関連の話が展開する。

「「CUT」誌の渋谷陽一による『風立ちぬ』三万字徹底インタビュー」というのがあるのだという。面白そう。ご自身も飛行機少年だったという内藤さん。このインタビューを読み、宮崎駿さんも親御さんが自分と同じく、航空機産業に従事していたことから、親近感を抱いたよう。

シナリオの批判を紹介する中、出てきたのが「稲垣足穂や内田百閒の系譜につらなる飛行機少年」という表記。

名古屋育ちの内藤さんは、少年時代に見たという熱田神宮で開かれた「大東亜戦争展覧会」について詳しく書いている。あわせて名古屋に勤務していた堀越二郎も見たであろう「ハワイ・マレー沖海戦の仕掛け花火」も忘れられないとも。

続けて、こう説明する。

P90
このようなことを書いているのは、『風立ちぬ』という映画は、堀越二郎を主演にしたものではなくて、堀越二郎のやろうとしていることを夢中で見ている飛行機少年の眼で描けばよかったのにと思うからである。

降旗康男監督『少年H』が、「少年の視点があるので主人公を批評的に見ることができた。」からであるという。

日本の航空機映画の傑作として2作を紹介している。戦前(戦時下)では宮島義勇撮影の『燃ゆる大空』(阿部豊監督、昭和十五年)。「実写で航空機の飛行をとらえ、飛行機少年の間ではベストワンだった」という。最近では、「油谷誠至監督の平成二十五年秋公開『飛べ! ダコタ』がある」とも。これは衛星放送でもやっていたぞ。

ドイツ土産の紙飛行機に、「孫たちは見向きもしなかった」と、この文章を締めくくっている。そういう時代なのだろうか。