日本語の向こう側/日本語学習者たちが教えてくれた「日本」 伊藤郁子 東洋出版 2000年09月07日 第1刷発行 81頁 |
不思議な本です。わずか81ページなのですぐ読めます。シリーズ本でもないし、どういう経緯で出版されたのでしょうか。
内容(「MARC」データベースより)
日本語学校講師である著者が、夫の転勤でニューヨークへ。ニューヨークでも日本語教師の職を見つけ、そこで出会った様々な日本語学習者たちとの交流を描く。
イギリスに居住したことのある著者がニューヨーク近郊に住んでみての英米比較が面白い。
P26
アメリカ人の付き合いはそっけないほどさっぱりしていた。イギリス人のようにカーテン越しにのぞいている人はいない。
アメリカ人よりもイギリス人のほうが日本人に近いとも言い切れなさそうですが。というよりも、国でひとくくりにすることに、抵抗を感じだしてしまうと、先に進めなくなるのでいったん保留にしないと。
サブタイトル「日本語学習者たちが教えてくれた「日本」」にあるように、国外から眺めた「日本」が本書のテーマなので、そこが読みどころになります。著者の日本語教師という職業の紹介が興味深い。現地で入学した英語学校で出会った教師たちの個性を評するところが出色でした。教師を教えるというのはやりにくいでしょう。アメリカではそれも個性というのかな。
著者は自ら積極的に切り開く前向きなところが魅力です。ニューヨークで英語学校を探すにも、電話帳のイエローページをめくって何度断られても探し続けます。この姿勢で切り開いていく海外生活の体験記。もちろん、そこで考えたことが本書の中心ですが。有吉佐和子の『非色』が出てきます。他にも何冊も(アメリカ体験記や小説が)あるなか、これを選んだところが特色です。
著者の年代が書かれていないので、著者の体験から導かれる感想を読者はどうとらえたらいいのか、ときどき迷います。もっともそんな枠組み自体が狭いのかもしれません。
1970年前後の思い出話が出てきます。「ヒッピー、大阪万博、ギターを持った長髪の若者」、「プロテストソング『勝利を我らに』『悲惨な戦争』」。その話題で盛り上がったとも。
ニルヴァーナと尾崎豊が出てきました。後者はお好きだとして、尾崎さんが二十歳のころ暮らしたマンハッタンの住居を訪ねています。建物の写真も掲載。
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P69
日本は『キモノ』や『ナットウ』に代表される国では決してない。『自分たちは特別だという意識をもっている国民性』こそが日本の特徴です。
著者の日本語学校生徒デイビッドの日本人感として紹介された言葉。彼はガイジンとして日本人社会から疎外された経験があるとのこと。十分に日本を理解していると思われるだけに重みがあったのでしょう。「特別」というキーワードは、「あとがき」にふたたび登場します。
P79
短い期間でも日本を訪れた人たちに日本を嫌いになって欲しくない。日本が「特別」な国かどうかをわかりやすい言葉で話し合っていきたいと思っている。
日本語教師という職業への自負。
平成になって、多くの目が内側を向いていると指摘されて久しい。令和になってどうなんでしょう。そんな大上段なことではないな。著者は自分が体験したことからしか書いていません。多様性とか開かれたとか、言葉でいうのはたやすい。
表紙カバー写真は著者の撮影だとあります。これに惹かれたのでした。吉田ルイ子風。さっき、ジョーン・バエズを久々に聴いてしまいました。
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