本の雑誌2020年9月号 特集=つぶやく出版社!

本の雑誌2020年9月号
いわし雲寝過ごし号 No.447
特集=つぶやく出版社!
本の雑誌社

スマホは持っていても、そもそも Twitter も Facebook もやったことがない。今回の本誌特集が「つぶやく出版社!」。

P12
☆なにかと話題のSNSだが、では出版社はツイッターをどう使っているのか。というわけで、今月はつぶやく出版社を大特集。"中の人"適性試験を作る座談会から、ツイッタラー編集者対談、ツイッター大成功大失敗アンケートに出版社アカウントフォロワー数調査まで、つぶやく出版社の全貌に迫るのだ!

 このテーマにいったいどれだけの読者がついてこられるのだろうか、と初めは思った(なにしろ本誌の読者の特徴から、失礼ながらも多くはツイッターは厳しいだろうと予断をもってしまった)。しかし、P24~掲載の各出版社がツイッターを始めた年を見ていると、10年以上前というところが多かった。

 P28~「●ジャンル別おすすめアカウント10選」を見るに、時すでに遅し。出版界と言えども、ネットではホームページでもブログでもなく、今やツイッターが当たり前なのだ。それにしてもこの「●ジャンル別おすすめアカウント10選」は魅力的だ。見開きの右ページが新保博久氏によるミステリー編、左ページが橋本輝幸氏によるSF編。

 P30~「書籍系アカウント フォロワー数大調査」(◎田中裕士)では、ベスト30位までの一覧が掲載されている。フォロワー数の桁が芸能分野とはだいぶ違っているのはご愛敬かな。

◆ ◆

P34
●SF音痴が行くSF古典宇宙の旅(11)
量子力学的ノンフィクションとは何か
=高野秀行

 内容としては、前号からのグレッグ・イーガン『宇宙消失』の続き。

 量子力学理解に役に立ったとして、『超ひも理論をパパに習ってみた』(橋本幸士著、講談社)と『銀河の片隅で科学夜話』(全卓樹著、朝日出版社)を挙げている。

 今回、この記事で何よりも目をひいたのが「シュレディンガーの猫」の説明だった。これまで見たどのTV番組やどの本の説明よりも、わかりやすかった。ピンときたと言ったほうがいいかもしれない。SF小説(アニメでも今や当たり前だったりする)で目にする「パラレルワールド並行世界」が、「シュレディンガーの猫」の箱を開けた状態というのは、目から鱗が......という感覚だった。これまでの説明を読む限り、理屈ではわかったつもりになれても、感覚として腑に落ちなかった。それがこの「パラレルワールド並行世界」説によって、すとんと納得してしまった。高野さんすごいぞ。「もう一つの世界にいる別の自分」なあんて、今どきのアニメではごく当たり前だものな。

P52
『投票権をわれらに』が記す/今現在も続く問題
冬木糸一
新刊めったくたガイド

『ぜんぶ本の話』(池澤夏樹・池澤春菜、毎日新聞出版)を取り上げている。

P52
ジャンルが熟成しきったSFはこの先どうなっていくのだろうか、などの各ジャンル論もおもしろいが、本に関する対話を通して家族の歴史が浮かび上がってくるのがたまらない。読みたい・読み返したい本が増えてしまって、大変な一冊だ。

 たまたま、この本は先頃読んでいた。このコーナーで取り上げられる本で、そんなことは珍しいので驚く。
 加田伶太郎こと福永武彦のファンだった。それだけに息子の口をとおして教えられた『草の花』『海市』のモデルを含んだトラブルの話は興味深かった。
 この本で取り上げられた冊数がすごい。しかも、こちらの興味をひくものが多い。既読もあったが、それはそれでまた嬉しい。

P88
私がロト7に当たるまで(26)
ときめきパターンの分類
=宮田珠己

 ロト7の話のときには読み飛ばしていたのだが、コロナ禍のために生活スリム化として本を処分することになってきたら、俄然興味がわいてきた。

 仕事部屋のワンルームを解約、そこにあった本を自宅へ。もちろん、すんなりいくはずもなく。なにしろ本好きにとって、本を処分することほど難しいことはない。どんな基準で処分する本を選定してよいのか。それが決められないのだ。

 宮田氏も、あーだ、こーだと悩む。そこがおもしろい。意外だったのは、スペースを優先していたこと。つまり箱入りサイン本を処分し、文庫を残していた。とにかく減らすこと(スペース確保)を優先したことが、その処分した本を知らされるにつけ、痛いほど理解する。

 しかし、宮田氏はそんなことよりも、さらに違った視点を提示する。

P89
まったく読んでいない本を処分するのは、ほんとにアホらしい。いったい何のために買ったのか。なんだかんだで、この「期待本」を手放すのが一番虚しかった。

ここでいう「期待本」とは、いつか読もうと買ってある本のこと。
 ちなみに、処分するにあたって、宮田氏は次のように蔵書を分類した。

好きな本
期待本
資料本
思い出本
飾り本
サイン本
自著

目新しい呼び名として「飾り本」があった。なるほど。「好きな本」と「思い出本」はオーバーラップする範囲がありそう。「たまに取り出してなでなでしたりする」のが「思い出本」だという。本好きならよくわかる。「ちょっとめくって5行くらい読んだりする」。それでいいのが「思い出本」。

 やっぱり捨てられないのは「思い出本」なのだろうな。

P95
●ユーカリの木の蔭で
輝く解釈
◎北村薫

 今回は、エッと驚く内容だった。李白の有名な「静夜思」の訳について。

 「牀」とは「寝台」のことではないというのだ。「中国では井戸の井桁を「床」または「牀」という」のだそうだ。つまり、「牀前月光を看る」は「井戸端で月光を見た」となる。「ベッドで」見たのではないのだ。

 いったいどこのどいつだ? こんな初歩的なミスを犯したのは。
 中学生のとき、この詩を読んだことが記憶にある。寒い晩に月を見たという描写が妙に気に掛かったのだ。しかしなあ。寝台と井戸端では、とんでもなく状況が違う。きっと学者による間違いなんだろう。

 小林秀雄が訳したランボーの詩を評して、子供でも間違えないような初歩的なフランス語のミスがあると篠沢秀夫が言ったことを思い出す。

 『李白』(筧久美子、角川ソフィア文庫)、読んでみたい。

 ところで、この話、以前にどこかで目にしたことがあったような気がしてきた。もしかすると、北村先生、前にもどこかで書いていたのだったろうか。まめにメモをとっていないので、噸と思い出せない。

P115
即売会の世界
石川春菜(八画文化会館)

「サボテンお遍路」という様々なシチュエーションで育ちすぎたサボテン写真、こちらも興味がわいてきた。

ひなびた食堂の店先で巨大化していたり
カーブミラーに憑りついていたり
民家の軒先のでパイプに縛り付けられていたり......

路上観察学会からも見落とされそうな内容。むしろ四釜裕子さんの最近のブログにありそう。

出典は、『SABOTENS vol.1』路上演芸学会を主宰する村田あやこさんと、路上に落ちているアイテム「落ちもん写真収集家」の藤田泰実さんが2016年に結成したユニット「SABOTENS」の即売会本だという。

サボテンの他にも路上演芸じゃなくて路上園芸の魅力として、発泡スチロールのトロ箱に植えられた植物やその回りに並べられた人形などなど。いかにもありそう。ひなびた食堂の食品サンプルと並んでいる品々にとぼけたものがあったりする。あれのことだろう。

巻末広告から
本の雑誌の本

『読む京都』入江敦彦