[NO.1491] 年賀状のおはなし

nengazyono.jpg

年賀状のおはなし
日本郵便株式会社 監修
ゴマブックス
2019年11月23日 初版第1刷発行
212頁

以前、年賀状のテンプレートを探していて偶然発見した中に「ボストン美術館のアーカイブス」のサイトがあった。日本の古い年賀状の画像を公開していたので、しばらく見入ってしまった。日本の浮世絵などと同じ扱いのような気がした。

そのときに感じたのと同じような興味から本書を手にした。題名にも「おはなし」とあるように、ビジュアル面だけでなく、年賀状の「通史」について書かれており、面白く読んだ。内容もわかりやすく、よくまとまっている。オーソドックスな編集と文章で、昔の岩波新書みたいな初学者向け学術書風。「新年の概念」が生まれたという飛鳥時代から、年賀状について書き起こしている。アカデミックだ。

もちろん、文章だけではない。前ページに年賀状のカラー写真が掲載されている。編集構成としては、むしろ画像の方が主眼だろう。

個人的に興味深かったのは、江戸趣味な和風デザインよりも洋風な年賀状だった。

◆  ◆

P096~「エンボス加工」が目新しかった。上記のボストン美術館サイトでは気がつかなかったもの。エンボスというのは紙の表面に凹凸をつける加工のこと。ロゴだけでなく模様や文字もある。本書の例が1907~1909年というので驚く。明治40年代初頭に、こんなおしゃれな年賀状をやりとりしたいた人たちがいたとは。

◆  ◆

P114~「絵葉書出版社」
年賀状も絵はがきの中のひとつであるという分類に納得した。1900年代初頭、絵はがきがブームとなったことで専門の出版社が生まれたという。おかしかったのが、絵葉書出版社(版元)とあること。まるで江戸時代の浮世絵などのよう。小さな組織だったのだろうな。何軒か、店名ごとにまとまって子が上が紹介されている。「神田浪華屋」「下谷山光堂」「徳田商店」「鳥井商店」「今川橋青雲堂」「銀座上方屋」。

P178~「芸術家同士の年賀状交換会「榛(はん)の会」」が興味深かった。年賀状愛好家による交換会があり、「榛の会」では毎回50人分の作品(葉書)を収めたアルバムを配布していたという。このアルバムというのが立派なもので魅力的。

もともと、大正末から昭和初期にかけて、裕福な趣味人(すごい呼び名だ)の間に年賀状交換会なるものがあった。発案者が京都の郷土史家の田中緑紅(りょっこう)とのこと。

そんな流れのなか、武井武雄の主宰による「榛の会」が1935年から1956年まで続いた。毎回作品の良し悪しをつけ、下位のものは翌年に参加できないルールだったという。

◆  ◆

P210「おわりに」
本書に掲載されている年賀状は、高尾さんというコレクターの提供であり、さらにさかのぼれば、元は小竹(おだけ)忠三郎なるコレクターだという。

やっぱり絵葉書コレクターなのか、というのが感想。小竹さんの絵葉書コレクションは15万枚。その一部である年賀状のさらに一部が本書に掲載なのだ。

切手とならんで絵葉書は収集の対象として、昔から有名だものなあ。宮武外骨は戦時中、膨大な絵葉書コレクションを分類分けしていたという。昔、職場の先輩にいたハイソな人もまた趣味は絵葉書収集だと言っていた。その時には、なんて古ぼけておかしなことを言っているのだろうと感じたことを覚えている。

この絵葉書収集家は、なかなか個性的だった。PCがWin95の時代にメモリをもらったことがある。さらに、井上ひさしの高価な箱要り戯曲集の一冊を(間違って余分に買ってしまったからといって)もらったこともある。当時は気がつかなかったが、個人的に親切にしてもらった。祖先は有名な藩の家老だったとか。

◆  ◆

本書は装丁がいい。手になじむ。