東海道ふたり旅/道の文化史 池内紀 春秋社 2019年01月07日 初版第1刷発行 349頁 |
よくある旅ものや紀行文の類ではない。じっくり時間をかけて作られた本。サブタイトルにあるように、「(東海)道の文化史」が詰まっている。一応、日本橋から三条大橋までの項立てという体裁はとっている。しかし、ページの途中でいきなり戻ってみたり、時代も往ったり来たり。それが面白い。
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よくもまあ、こんな企画を考えたものだと感心するやらあきれるやら。少し、うらやましくもなる。もちろん、こんなあふれる蘊蓄はないけれども。
基本は歌川広重『東海道五十三次』。この一枚一枚を詳細に眺めるところから始まる。それぞれの宿場ごと、執拗に描写されている。そして、その先の展開が面白い。こちらの好きでもある「本」にまつわるエピソードが披露されると、ますます引きこまれる。紀貫之から岡本かの子『東海道五十三次』まで、はばが広いのだ。ところどころに挿入された写真は、筆者によるもの。川崎の寂れたキャバレーなど哀愁がある。
そもそも、どうしてこのような本が誕生したのか。あとがきに紹介があったのを読み、納得した。
一度、PR誌に書きかけたのを捨て、全面的に書き直したのだという。
もともと毎日のように広重『東海道五十三次』を眺めていた。それも虫眼鏡で拡大して、人物の衣服から背景まで。
また、東海道新幹線を途中下車し、歩くことも繰り返していたとも。
筋金入というやつですね。頭の中で、というよりも全身で『東海道五十三次』が熟成発酵しているのですよ。
それでなければ、筆にまかせてと言ったって、こんなにもあっちこっちへと飛びはしません。
「あとがき」から引用
p343
道案内は絵師広重だが、「ふたり」にはべつの意味もこめている。「道の文化史」と称しているが、文化にかぎらず社会、経済、歴史、技術、芸能......以下略
宿場ごとに参考文献にあたり、特色に応じてテーマを考えてあるのだという。そりゃあ読みごたえあるわな。単なる学術書でもなく、かといって旅もののルポでもない。ぜいたくな読みもの。
巻末には「参考文献」も。
だいたい、広重『東海道五十三次』のバージョンの違いなんて、これまで意識もしなかったし。
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