[NO.1440] 人生を狂わす名著50冊

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人生を狂わす名著50冊
三宅香帆
今日マチ子
ライツ社
2017年10月01日 第1刷発行
391頁

「天狼院書店」ウェブサイト掲載、『京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」(=どうしても社会や世界に流されることのできなくなる)と思う本ベスト20を選んでみた』で好評だった内容をもとに書かれたブックガイド。

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著者は京大大学院で国文学(古典)を専攻。しかし、本書で取り上げた50冊には入っておらず、児童書から外国文学、少女漫画まで幅広いジャンルから選定している。

特徴なのが、その構成だった。

現在のブログに見慣れているユーザーにとっては、これが当たり前なのだろう。スマホユーザーからのアクセスがPCからを抜いた現在、古い時代にブログに接した人間にとって新鮮だった。ましてやそのままのレイアウトが本のページに使われているのだから。

ページを開くと最初に説明されているのが、「この本の使い方ーーライツ社 編集部より」。図解で説明がされている。

①〇〇な人へ  どんな読者にお勧めなのか、ひと目でわかる
②書誌情報 入手しやすい出版社名と初出の年。初出の年を取り上げたところがいい
③〇〇VS〇〇 手書きが目を引く。本のテーマ
④ハッシュタグ 笑ってしまった。SNSの発想。これが思ったよりも選書の参考になる
⑤人生を狂わすこの一言 前述のごとく、狂わすというキーワードからの見解
⑥次の本 本書の読了後に発展先を紹介

前世紀の終わり頃、雑誌全盛だった時代、ムックと称した出版物で目にした体裁をさらに進化させている。なるほどと感心してしまう。何しろ「書評」というジャンルの本なだけに。いや、むしろこうした分野にまで、この手のレイアウトが、やっと進出してくるようになった、と言うべきなのかもしれない。

そうすると、本書の選定した50冊というのは、きわめて穏当な内容だったと言える。尖ったところがない。

【選定50冊】
『高慢と偏見』ジェイン・オースティン/『フラニーとズーイ』J・D・サリンジャー/『眠り(『TVピープル』所収』村上春樹/『図書館戦争』有川浩/『オリガ・モリソヴナの反語法』米原万里/『スティル・ライフ』池澤夏樹/『人間の大地』サン=テグジュペリ/『グレート・ギャツビー』スコット・フィッジェラルド/『愛という病』中村うさぎ/『眠れる美女』川端康成/『月と六ペンス』サマセット・モーム/『イメージを読む』若桑みどり/『やさしい訴え』小川洋子/『美しい星』三島由紀夫/『死の棘』島尾敏雄/『ヴィヨンの妻』太宰治/『悪童日記』アゴタ・クリストフ/『そして五人がいなくなる』はやみねかおる/『クローディアの秘密』E・L・カニグズバーグ/『ぼくは勉強ができない』山田詠美/『おとなの進路教室』山田ズーニー/『初心者のための「文学」』大塚英志/『妊娠小説』斎藤美奈子/『人間の建設』小林秀雄・岡潔/『時間の比較社会学』真木悠介/『コミュニケーション不全症候群』中島梓/『枠組み外しの旅「個性化」が変える福祉社会』竹端寛/『燃えよ剣』司馬遼太郎/『堕落論』坂口安吾/『アウトサイダー』コリン・ウィルソン/『ものぐさ精神分析』岸田秀/『夜中の薔薇』向田邦子/『東京を生きる』雨宮まみ/『すてきなひとりぼっち』谷川俊太郎/『チョコレート語訳 みだれ髪』俵万智、与謝野晶子/『ぼおるぺん古事記』こうの史代/『百日紅』杉浦日向子/『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯛は二度跳ねる』水城せとな/『二日月(山岸凉子スペシャルセレクション 8)』山岸凉子/『イグアナの娘』萩尾望都/『氷点』三浦綾子/『約束された場所で』村上春樹/『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ/『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー/『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ/『光の帝国ーー常野物語』恩田陸/『なんて素敵にジャパニスク』氷室冴子/『恋する伊勢物語』俵万智/『こころ』夏目漱石/『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

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【細かく気になったところ】

P42 『聖書を語る』佐藤優、中村うさぎ(文藝春秋)  この二人の取り合わせが

P46 「その子の存在が今までにないくらい濃ゆくなる感じとか」 「濃ゆくなる」とはこれいかに

P58 『オリガ・モリソヴナの反語法』米原万里  おやっと思う選定

P76 『ワイド版 風の谷のナウシカ 1〜7』宮崎駿(徳間書店)/『単独飛行』ロアルド・ダール(早川書房/『喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima』森博嗣(講談社)  なかなか同好の士のようで

P107 「美術館で見かける絵画のほとんどは、芸術家がまだ「職人」に近かった時代のものだ。」 『イメージを読む』若桑みどり の記述から。工房での仕事だった。

P110 『怖い絵』中野京子(角川書店) 怖い絵シリーズ

P145 「彼らはクールでタフで、そんじょそこらのハートボイルド小説が太刀打ちできないような容赦のなさに満ちている。  うーむ。そんじょそこらには「ハートボイルド小説」があるのか、などと嫌味が湧いてくる。こりゃ、筆者の誤記なのか、編集の段階で生じたミスなのか。校正はどうなっている?

P154 『大統領の晩餐』小林信彦(KADOKAWA)「だって、きみは、怪人二十面相が好きだからさ。奴が死ねば、きみは、別な二十面相を創り上げるにちがいない。それで、夜も昼も、赤い夢を見て暮らすんじゃないかな」ーー『夢水清志郎』シリーズを読んだ子なら、絶対に「やりたい」とさせられるこの台詞。実はこの本が元ネタ......などという知識、なかった。

P170 『放課後の音符(キイノート)』山田詠美(新潮社)/『いまを生きる』N.H.クラインバウム(新潮社) 後者について。映画が有名な......

P178 「どうして、私たちは学校で「文学の読み方」を教わらなかったのだろう?」「現代文という教科があったのに、なぜ結局、中上健次も安部公房もよくわからないまま卒業したのだろう?」  って、そういうことって、学校で習うものだったのか。つづけて、引用「ふつうに本好きだった私が「本ってこんな読み方ができるのか」と驚いて、大学で文学研究しよっかなーと思った、きっかけの一冊でもある。」
私小説や文壇とはいわなくとも、いったい。

P182 『世界文学を読みほどく:スタンダールからピンチョンまで 【増補新版】』池澤夏樹(新潮社) 初心者のための文学、世界文学バージョン/『映画の構造分析ーーハリウッド映画で学べる現代思想』内田樹(文藝春秋)

P184 日本の近現代文学には「病気小説」や「貧乏小説」などの伝統ジャンルがあるという説明の中で、病気小説といえば、サナトリウム文学等を思い浮かべることができる。同様に貧乏小説の例として挙げられたのが以下の記述。「貧乏小説、というのも同じく。お母さんが夜なべして内職してくれる、とかね。」 もしかすると、「手袋」を編んでくれたりして。無頼派はいったいどこへ行ったのだ? 伝統は童謡になったのか。

P190 『現代語役 舞姫』森鴎外著、井上靖訳(筑摩書房) 井上靖が訳していたとは。何時代の話?/『現代文学論争』小谷野敦(筑摩書房) すごい。これが今どきなのか。

P200 「今の私たちが持つ「時間」の感覚は、実は「つくられた」ものであり、「そうじゃない」時間感覚というのは存在する」というところを孫引き。時間の総体化。『時間の比較社会学』真木悠介 の紹介文から。共同幻想までつながる。で、発展書に下記

P202 『定本 想像の共同体ーーナショナリズムの起源と流行』ベネディクト・アンダーソン(書籍工房早山) 共同幻想に向かい、ナショナリズムへ。

P216 『愛に生きる』鈴木鎮一(講談社) スズキバイオリンのスズキメソッドだそうで。教育論をここからとは驚いた。初めて。/『はい、泳げません』高橋秀実(新潮社) コーチとの往復書簡で泳げるようになった。教育論。これも珍しい視点。/『ひとりでは生きられないのも芸のうち』内田樹(文藝春秋) いわずもがな

P239 『改定新版 共同幻想論』吉本隆明(KADOKAWA/角川学芸出版) 『ものぐさ精神分析』岸田秀の「共同幻想」元ネタと紹介。不易と流行?

P251 『錯乱のニューヨーク』レム・コールハース(筑摩書房) 都市論の名著

P347 『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン(早川書房) 『光の帝国ーー常野物語』恩田陸の元ネタ

P369 「一ミリの隙もない」が、口癖?

P373 『漱石はどう読まれてきたか』石原千秋(新潮社)