[NO.1438] 晴れた日は図書館へいこう/ポプラ文庫ピュアフル

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晴れた日は図書館へいこう/ポプラ文庫ピュアフル
緑川聖司
ポプラ社
2013年07月05日 初版発行
2013年09月25日 第6刷発行
246頁

ジャンルではいちおう「ミステリー」。児童書とライトノベルの境界のような位置づけ。主人公は本好きな小5の女の子。近所の図書館で体験する日常の出来事が、ちょっとした疑問(謎)とその解決という展開をとる短篇6話からなる。

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母が編集者、以前に別れた父は小説家、図書館司書が従姉妹という設定で、本が好きな読者には入りやすそう。

作者いわく、図書館での勤務経験はなくとも、ヘビーユーザーというだけあって、図書館に起きる出来事が随所に挿入されている。返却ポストにいたずらされる逸話はひどい。書架の整理の大変さや紛失本についてなど、小学生にも理解できる。適宜挿入される子どもの心情描写も的確で、小5なら読んでいて引き込まれるだろう。

【これ以降、ネタバレあり】
初出の『晴れた日は図書館へいこう』(小峰書店 刊、2003年10月)に加筆・修正のうえ、書き下ろし短篇「雨の日も図書館へいこう」を加え、文庫化。

目次
プロローグ
第一話 わたしの本
第二話 長い旅
第三話 ぬれた本の謎
第四話 消えた本の謎
第五話 エピローグはプロローグ
番外編 雨の日も図書館へいこう
あとがき

書き下ろし「番外編 雨の日も図書館へいこう」の主人公が入れ替わっていた。その説明はないまま、最後の場面で

p238
「......美弥子さん。ねえ、美弥子さんってば」
「え?」
物思いに沈んでいたわたしは、エプロンを強くひっぱられる感触に、われにかえった。振り返ると、いとこのしおりちゃんが心配そうにわたしの顔を見あげていた。

から、わかる構成になっている。つまり、この番外編だけが、主人公は従姉妹の美弥子さんが小学生だったころの話になっている。ここで登場しているしおりちゃんというのは、まだ幼かったころの「わたし」という設定。

いわゆる児童書によくある対象年齢だと、どれくらいを想定するのだろう? 読者が小5だと、読み慣れていなければ、すんなりとは把握できないのではないだろうか。よくある、子ども向けの体裁をとりながら、大人向けの内容になっているものとは違う。

この「番外編 雨の日も図書館へいこう」を追加した文庫は、大人向けということなのだろう。

「あとがき」によれば、初出の単行本が作者にとってデビュー作であり、

p245
さらに思いがけなかったのは、その作品を北村薫さんがアンソロジーやエッセイで取り上げてくださったり、戸川安宣さんがブログで褒めてくださったことです。

とのこと。驚いた。北村薫氏が「アンソロジーやエッセイで取り上げ」たという。で、しばらく考えて、納得する。こういう作風は、いかにも北村薫氏好みだ。本書では日常の小さな謎を扱っている。北村薫氏デビュー作の円紫さんシリーズも、いうなれば同じ作風であろう。

「日常の謎」を扱っている本作は、以後、シリーズ化できそうな気がする。児童書は詳しくないので、以前、青い鳥文庫で読んでいた「松原秀行さん」や「はやみねかおるさん」あたりしか、思いつかないが。一般書としても、この主人公の子が成長してからの話として、まだまだふくらませられそう。お父さんとは、その後、どうなるの? 変に思春期のトラブルを持ち込む必要もなく、北村薫氏風の端正な作品みたいな、その後を読んでみたい。