[NO.1414] 内田百閒文学散歩

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内田百閒文学散歩
備仲臣道
皓星社
2013年09月01日 発行

著者に「百間の面白さを教えてくれたのは、大学四年で病死した上の息子」さんだったという。そして、「百間の旧居跡を回りはじめたのは九年も前の春、たまたま下の息子」さんの受験で上京したことからなのだとも。予想外の展開に驚いた。

地味目の表紙でもあり、著者はてっきり元編集者かアカデミックな立場の方かと思いきや、まるで違った。あくまでも個人的な動機から取り組まれたのだという。著者ご自身の履歴、なんとも陰影が深い。

文学散歩は好きだったので、以前から本書のように内田百閒が住んでいた跡をたどってみたい気持ちがあった。そんな思いにこたえたくれる内容だった。

映画『まあだだよ』の背景を思いだしながら読み進む。写真も興味深く拝見。

紹介されているコースをそのうちに回ってみようと思う。

それにしても、浮世離れしたような、この金銭感覚の乏しさ。そこが魅力なのでしょうが、奥様はたいへんだったことでしょう。変なたとえになるけれど、植草甚一の亡くなった後にインタビューに答えていた、梅公さんの言葉を思い出す。金銭感覚が似ている。

芥川の内田百閒への対しかたが、石川啄木に向けた金田一京助と同じであるような気がした。百間も啄木も、ともに金の無心をし、芥川も金田一も同じように貸している。
芥川が海軍機関学校の語学教員の口を斡旋したというのは知っていたが、額の裏にしまっておいた紙幣を手渡したという逸話が印象深い。放っておけなかったのだろうな。それにしても、額の裏とは。