本の雑誌2014年9月号 特集=本の雑誌が作る夏の100冊!

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本の雑誌2014年9月号 特集=本の雑誌が作る夏の100冊!
通算375号

気になる記事を抜粋。

「岩波文庫の百冊」を選べない!
坪内祐三

p19
全部紹介するのは無理だからそのごく一部。
百冊を十のジャンルに分ける。つまり一つのジャンルに十冊ずつ。
この二十数年で充実してきたのは幕末・維新物すなわち明治初期の回想集だ。
その中から十点あげれば、『海舟座談』、渋沢栄一『雨夜譚』、篠田鉱造『幕末百話』(または『明治百話』)、『戊辰物語』、高村光雲『幕末維新懐古談』、鶯亭金升「明治のおもかげ』、田山花袋『東京の三十年』、『明治文学回想集』、長谷川時雨『旧聞日本橋』、そして淡島寒月『梵雲庵雑話』ということになる。
待てよ、『東京の三十年』と『明治文学回想集』は文学的回想集というジャンルになるかもしれない。
そのジャンルは、その二点と、内田魯庵『思い出す入々』、岡本綺堂『ランプの下にて』、高浜虚子「俳旬への道』、小島政二郎『眼中の人』、蒲原有明「夢は呼び交す』、『荷風随筆集』、谷崎潤一郎『幼少時代』、広津和郎『同時代の作家たち』、と、ここまでで既に八点か、私の好きな窪田空穂『わが文学体験』が入らない。
どうしよう。
そうだ、こうしよう。
最新版(二○一四年)の目録を眺める。緑帯(現代日本文学)の作家の内、夏目漱石の二十四点を別格として、ふたけたの点数が収録されているのは永井荷風(十一点)と泉鏡花(十五点)の二人しかいない(森鴎外だって六点に過ぎない)。
鏡花と荷風を比べたら私は荷風の方が好きだ。ひょっとしたら荷風は近代日本文学者の中で私が二番目に好きな作家かも知れない(一番は広津柳浪でもちろん荷風は柳浪のお弟子さん)。
だから荷風で一つのジャンルを立てることにしよう。
荷風の収録作は「腕くらべ』から『荷風俳句集』に至る十一点。その中から訳詩集『珊瑚集』を除いた十点で行こう(『珊瑚集』は巻末にフランス語の原詩が収録された貴重な一冊なのだが、そうか、訳詩集でジャンルを立てれば良いのかー最近の岩波文庫は中原中也訳「ランポオ詩集』や堀口大學訳「月下の一群』や西條八十訳『白孔雀』など訳詩集がますます充実しているから十点なんかすぐだぞ)。
荷風の作晶リストを眺めている内に、忘れていた!
『ぼく東綺譚』に素晴らしい挿絵を描いている木村荘八の『新編東京繁昌記』を文学的回想集に入れ忘れていたのだ。
「東京」というジャンルを立てるか。
そうなると長谷川時雨の『旧聞日本橋』がそちらに移るのはOKだとしても、荷風の『日和下駄』が入っている『荷風随筆』の上巻はどうする?
上巻は「東京」で下巻は「荷風」か。それから文学的回想集から抜けた『旧聞日本橋』に替るものは?
もう、頭が混乱して来ちゃいました。

実にいい。この部分までに既に見開き3ページを費やし、岩波文庫の位置づけを紹介している。それも、のらりくらりとのたくる文章。今の若い読者は、岩波文庫の権威を知らないだろうということで。
かくして、実際に紹介しているのは上記の部分、これで見開き1ページ分。

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百歳までの読書術
友達は大切にしなければ
津野海太郎

p97
人はひとりで死ぬのではない。おなじ時代をいっしょに生きた友人たちとともに、ひとかたまりになって、順々に、サッサと消えてゆくのだ。現に私たちはそうだし、みなさんもいずれそうなる。友だちは大切にしなければ。

俳優の斎藤晴彦さんが亡くなったことについての文章から。突然、斎藤さんの訃報を受けたことろから始まり、これまでお二人の交友を紹介した末尾が上記となる。